今回、ご紹介するのは堀田善衞氏の3冊の本の装丁、本文組みのデザインをしていただいた、アリヤマデザインストアです。
そもそも堀田氏の復刊・単行本化にあたって、一つ大きな問題だったのが、どのような本にするのか、といういわば「本の顔」についての部分でした。
当欄の第2回にも書きましたが、内容から生まれるイメージに従えば、既刊本のような重厚なイメージになりますが、それではわざわざスタジオジブリが復刊するという意味も薄くなります。そこから脱却するためにもまずは、宮崎敬介氏に版画を依頼することは決めましたが、本全体のデザインについては、しばらく大きな思案どころでした。
いろいろ考えつつ、そこでふと手にとった本がありました。坪内祐三氏の『一九七二』です。この本は、日本の文化状況の大きな転換点として1972年を取り上げ、そのとき、どんな事態が起こっていたのかを、立体的に描き出している本です。この本の装丁は、白い凹凸の加工がある紙に、味のある漢数字のゴシックで一九七二と印刷されている、非常にシンプルなものです。よく見ると、数字の周りに、いくつか黒い点がちらばっていました。気になってクレジットを確認すると、「版画」とあります。実はフォントに見えて、カバーの数字は版画だったのです。
このシンプルで力強く洗練されたデザインは、非常に印象に残りました。デザインは「アリヤマデザインストア」とあります。そこでちょっと調べてみると、雑誌「編集会議」のバックナンバーで取り上げられていることがわかりました。
ちょうどその号が手元にあったので、読んでみるとアリヤマデザインストアの有山達也さんは、2002年から雑誌「暮らしの手帖」のアートディレクターも務めていることがわかりました。当時、伝統ある同誌が外部デザイナーを起用するのは非常に珍しいと話題になっていたことは覚えていたのですが、それが有山さんとは知りませんでした。
と、ここまでのリサーチで、できれば有山さんにデザインをお願いしたいという、こちらの意思は固まりました。
その理由は、有山さんのデザインに「古臭くないクラッシックさ」、言い換えれば「時代を超えるスタンダードさ」を感じたのです。かといって、現代に通じる洗練された雰囲気も十分にあります。「クラシックなものをより若い感覚で」というのは、宮崎敬介氏にお願いするときにも考えたことで、その意味でも有山さんのデザインが「本の顔」に不可欠だと考えたのです。
そしてお願いをしたところ、有山さんには快諾をいただきました。
出来上がりは、書影を見ていただきたいのですが、WEBで残念だと思うのは、その手触りを確認していただけないことです。実は3冊ともカバーには特殊な凹凸の加工がしてある紙を使っており、手に取ると独特の風合いがあるのです。
また本文でも、(技術的なハードルはいくつかあったのですが)非常に落ち着いたフォント(游明朝体R http://www.jiyu-kobo.co.jp/yulibrary/yum/ym.html)を選択していただき、その結果、読みやすく落ち着きのある本に仕上がりました。
書店では、きらびやかなデザインの本が目立ちますが、有山さんのおかげで、その中にあって物静かではあるが存在感のある顔立ちの本になったと思っています。
発売になった折には、こうした細部も含めて、3冊の本を楽しんでいただけたらと思っています。
「時代と人間」通信目次
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