堀田善衞氏の本を再刊するにあたって、どんな「顔」を持たせるか。そこが問題でした。小説の題材となっている、「中世」の雰囲気を損ないたくはないけれど、かといって、従来の堀田氏の書籍とまったく同じでは、スタジオジブリから復刊する意味が薄れてしまう――。そこで浮上したのが、木口木版画家の宮崎敬介さんです。
宮崎さんは1970年生まれの新進気鋭の作家です。大学在学中に木口木版画に興味を持ち、独学で技術の習得を始めたそうです。
さらに宮崎さんが、木口木版画に興味を持ったきっかけこそ、堀田善衞氏の全集などで本の装丁・挿画を手がけた同じく木口木版画家の柄澤齊氏ということで、これは、従来のイメージを継承しつつ、かつ新しく、しかも若々しい感じを求めていた編集部の方針とまさにぴったりの方でした。また、堀田氏は、柄澤氏による装丁のイメージが強い一方で、若い世代にデザインなどを担当してもらうことも非常に好んだそうですので、そういう意味でも、ふさわしい方と思いました。
宮崎さんの画風は、西洋的で幻想的な雰囲気と、現代風のイメージが渾然としたところに特徴があります。
以下のURLで過去の個展の案内が見られますので、それを見ていただければ、よくわかると思います。
個展だけではなく、講談社文庫から発売中の『ウロボロスの偽書』上下巻(竹本健治)には、宮崎さんの「嵐が丘」という作品が使われています。このほか、映画『耳をすませば』の1シーンで作品が登場するほか、三鷹の森ジブリ美術館の展示にも作品が使われています。
さて、というわけで、編集部は宮崎さんに、連絡を取り、カバー用に版画をお願いすることにしました。
個展の準備で忙しい最中の宮崎さんでしたが、最終的にはこちらの申し出を快く受け入れてくださいました。ただし、大きな作品は時間的にも難しいとのこと。そこで、小さなサイズの人物や鳥の姿を制作していただき、それをデザインで見せていく方針に決まりました。
驚いたのは、その制作スピード。「こういうものは、一気に彫ってしまったほうがいいから」ということで、お願いしてから2週間もたたないうちに、3点の作品が出来上がっていたのでした。
どれも、実にいい雰囲気に仕上がっていて、従来の雰囲気を継承しつつ新しい何かを、と考えていた編集部の願いが実にうまく反映されていると思いました。近いうちに、その版画を使用したカバー画像をアップできることと思いますので、楽しみにお待ちください。
なお、その宮崎敬介さんの個展が11月17日(月)からPinpointGalleryで開催されます。興味のある方は、是非一度足を運ばれてはいかがでしょう。詳しくは以下のURLをご覧下さい。
「時代と人間」通信目次
|