昨年の最後に加藤周一先生から『路上の人』の解説をいただき、年始そうそう、ようやくニューヨークから、ゴヤの「アルバ公爵夫人像」のポジが届きました。というわけで、単行本のほうの作業も、いよいよ大詰めとなってまいりましたが、さて今回は、そんな状勢とは実はあまり関係のない話題です。
実は1月8日に、神奈川近代文学館を見学してきました。同文学館は、神奈川県ゆかりの作家の資料を中心に収集・展示を行っている文学館です。こちらに堀田善衞氏の資料が収められていると聞き、後学のために、それをみせていただこうと思ったのでした。
同文学館は、JR根岸線の石川町駅から歩いて20分ほど、「港の見える丘公園」の北側入り口から入ったすぐのところにあります。文学館の前には、レンガ色をした霧笛橋があり、その向こうに海とベイブリッジが見えます。風が強い日だったので、海上を白く崩れた波頭がちらちらとゆれていました。
同文学館は本館と展示館があり、外から見ると決して大きくは見えないのですが、地下になっている部分も多く、多くの資料はその地下にある資料室に納められているそうです。
堀田氏の資料が、遺族から寄贈されたのは2002年11月のこと。総点数はなんと約5000点。自筆の原稿については約380点あり、ごく初期の作品から後期の大作までほとんどそろっているのが特徴で、そこには未発表の詩草稿なども含まれているそうです。そのほかいくつかの作品の取材ノートや創作ノート、それにさまざまな小説家などと交わした書簡も収められたそうです。
これらの資料は、現在受け入れ作業中とのこと。一つ一つ内容を確認して、名前をつけてファイルなどに収める作業が、コツコツとつづけられているそうです。この受け入れ作業が終わると、研究者などの閲覧が可能になったり、あるいは同文学館の企画展などにテーマに応じて、一部展示室に展示されたり、というふうに、多くの人が見ることができるようになるとのこと。ただし、堀田氏以外にも、まだ受け入れ作業中の作家もあり、そこまで資料の整理が済むのは、まだしばらくは先のことになりそうだそうです。
堀田氏の肉筆資料を収めた資料室の棚
「路上の人」肉筆原稿 (写真撮影:星山善一)
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今回は特別に、資料庫におさめられた資料の様子をのぞかせていただき、今回復刊する『路上の人』と『聖者の行進』の生原稿も見せてもらいました。
『路上の人』など後期の作品のほとんどは、原稿が書き込まれた原稿用紙が出版社によって製本された状態になっていました。なお『路上の人』の1枚目の原稿には、現在のタイトルとはちがうタイトル案がいくつか記されていました。これがどのような経緯で『路上の人』となったか。そういう謎(?)こそ、同文学館に収められた資料によって、今後研究者によって明らかにされるであろうテーマなのかもしれません。
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同文学館は1984年に開館。資料の数は2002年度末の時点で既に図書約36万冊、雑誌約38万冊、肉筆資料(特別資料)約12万点を各々既に越えているそうです。小説に興味のある方は、港のみえる丘公園を散策しつつ、同文学館に足を運んでみるのも楽しいかもしれません。
同文学館については3月10日配布のスタジオジブリのフリーペーパー「熱風」3月号でも紹介する予定です。
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