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ジブリの最新作がフランスからやって来る

『レッドタートル ある島の物語』プロデューサー 鈴木敏夫

2016年5月、カンヌ国際映画祭に初めて参加した。マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の『レッドタートル ある島の物語』を携えて。思えば長い道のりだった。マイケルに長編映画を作ってみないかと呼び掛けたのが2006年秋のこと。それまでマイケルは短編の名手だった。

たった8分間の作品でひとりの女性の人生を見事に描き切った『Father and Daughter』。この映画を見て、僕はマイケルの長編が見たくなった。ジブリが手伝ってくれるなら——それがマイケルの条件だった。僕は早速、高畑(勲)さんに話を持ち掛け、了解を得た。

一方で僕はフランスの映画製作兼配給会社ワイルドバンチのプロデューサー、ヴァンサン・マラヴァルにも声を掛けた。シナリオ作りはともかく、現場はヨーロッパになる。だとしたら、ジブリと30年の付き合いのあるヴァンサンに相談するのがベスト。東京恵比寿で『Father and Daughter』を見てくれたヴァンサンも作品を気に入り、その場で協力を快諾してくれた。準備は進む。しかし、脚本の決定には時間を要した。

どういう映画を作るのか? マイケルの提案は、無人島に流れ着いたひとりの男の物語だった。世界にゴマンとある、いわゆるロビンソン・クルーソーものだが、マイケルが作れば格別のモノが出来そうだと僕は確信した。 夢が膨らんだ。

高畑さんとの実際のやり取りが始まった。しかし、コミュニケーションが難しい。日本とマイケルの住むイギリスは遠かった。電子機器の進歩を使ってもおたがいの考えが交わらない。いまでもイギリスは地球の裏側なのだ。そこでマイケルに提案する。シナリオ作りを日本でやってみないか?

元々日本が好きだったマイケルは二つ返事で来日した。 ジブリの近くにアパートを借りて、毎日のように高畑さんと顔を突き合わせての打ち合わせが始まった。 マイケルは、高畑さんとの議論を元に自分の考えをまとめて行く。 一ヶ月という予定がまたたく間に過ぎた。 こうしてシナリオと絵コンテ作りは捗り、マイケルも長編映画の作り方を習得して行った。

結局、マイケルに依頼した時から数えるとほぼ10年の歳月をかけて映画は完成した。予想外に時間が掛かったのが資金調達と契約だった。完全主義者のマイケルなので、スタッフの描いた絵をこれじゃダメだと言って、マイケルが「ぼくひとりで作る」と言い出すことが一番の心配だったが、それは杞憂に終わった。実制作は足掛け3年。マイケルは理性で自分をコントロールし、見事に長編アニメーション映画の監督をやってのけた。なにしろ62歳の長編処女作である。短編作家として長年のキャリアを持つマイケルが頑固で独善的になっても不思議ではなかった。だが彼は理性的な監督だった。

映画の完成後、カンヌ国際映画祭から声が掛かった。「ある視点」部門へのノミネートだ。アニメーション映画がこの部門に選ばれることは非常に珍しいらしい。関係者一同に異存はない。こうして、僕たちスタッフも海を渡ることになって、今回、ジブリとして初めてカンヌ国際映画祭に参加した。

『レッドタートル ある島の物語』はカンヌで「ある視点」部門特別賞を受賞した。映像と音のポエジーに溢れる、この映画自体が特別なものだというのが審査員の評だった。

※『Father and Daughter』(邦題:『岸辺のふたり』)

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