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こんな時代に、どんな映画を作ったらいいのか。
2008年7月、宮崎駿が悩んだ果てに選んだ作品が、「床下の小人たち」でした。
米林宏昌監督で制作準備にとりかかってまもなく、宮崎駿は社内のアニメーターを集めてこう言いました。「今ならこの作品は多くの人々に受け入れられるだろう。僕とパクさん(高畑勲監督)が40年前に企画した時より、今の時代の方が深刻だから」。
物語は、床下に住んでいる小人たちが人間の世界から少しずつモノを借りてきて生活しているところから始まります。そのことを“借りぐらし”と呼んでいます。小人たちは人間たちにみつからないように、用心深く生活をしていて、小人たちの生活は、知恵と工夫に満ちていた昔の人間の生活のよう。そこには古典的な家族の姿があります。父親、母親がそれぞれの役割をしっかりとこなし、その庇護のもと愛情をもって育てられた、好奇心旺盛な14歳の少女がこの物語の主人公アリエッティです。借りてくるものはほとんどが原材料で、それを家族が協力して加工し、作ることで、消費者であるけれど生産者でもあるということが大事な要素になっています。
小人たちは、身体が小さいだけで、姿形は人間とまったく同じ。魔法は一切使えません。借りに行く時は、ロープやガムテープを器用に使って登ったり降りたり、身体を動かして働きます。高畑勲は「床下の小人たち」を映画化するにあたって、こうアドバイスをしてくれました。「この企画は、知恵と工夫に支えられた生活をどれだけ描写できるかに尽きるのではないだろうか。彼らは単なる精神論だけではやっていけない立場にある。一般的に、登場人物が精神的な何かを抱えていればファンタジーになりやすいが、この原作はサバイバルそのものがテーマだから、徹底的に人間の外面で勝負する企画といえるだろう」。
小人一家が一所懸命に生きる姿を肉感的に豊かな表現力でアニメーション化するとき、この魔法力をもたないファンタジーは、現代に生きる人間の私たちにとって、生きる勇気を与えてくれるに違いないと確信しています。 |