2002年3月
3月1日(金)
昨夜で1ロール目の原画が全て上がる。あとは森田監督のチェックを待ってカッティング素材作りへ。ホッと一息するのだが、2ロールはまだしも3ロール以降のカット表を見ると、あまりの色の白さに愕然とする(各作業が終わるたびに赤で塗りつぶしていく)。先は長いぞ。
3月2日(土)
神村氏がクラッシュさせた車の修理が2週間もかかることが判明。ところが代車で借りているファンカーゴがめっぽう乗りやすいので(センターメーターは見辛いので不評)、「もう修理しなくて良いからずっとこれにしようよ」と、みんななぜか神村氏に意見を言っている。
原画の児山氏が作業終了。机を整理して次の現場へ。その後には早速ギブリーズを終えた田村氏が助っ人に登場。
3月4日(月)
朝から制作会議が行われる。先週の状況報告だが、原画のがものすごい勢いで上がっている割に、その後の伸びがイマイチ。今週からは作監以下のペースアップを図らねば。
先週末、メインスタッフまわりの電源が落ちる事故が数度発生し、昨日色指定、撮出しを含め、コンピューター周りの電源を独立させる工事をしてもらう。実は色指定マシンの下に一本はコンピュータ専用電源が来ていたらしいのだが、情報が伝わっていなかった為、なんでもかんでも電源が差し込まれていたらしい。複雑な撮出しカットを組んでいる途中に落ちなくて良かった。
3月5日(火)
夕方から「猫の恩返し」のラッシュチェックを行う。引き続き明日のカッティング用にお願いしていた1,2ロール分のタイミング撮影のチェックも行う。なかなか動きまくるカットが多くいい感じ。
3月6日(水)
昼から瀬山編集の面々が来社し、アビッド上で「猫の恩返し」1ロール目の上がっている本撮、タイミング撮、動撮カットを次々につないでいく。3時から森田監督と共にカッティング作業に入る。切ったりつないだり、入れ替えたりもろもろの作業を行い、午後7時頃終了。ホッと一息。
3月7日(木)
音響ハウスにおいてギブリーズの音楽録りが行われる。
音響作業が着々と進む中、実はまだ原動画が終わっていないギブリーズ。とにかく粘るで有名なアニメーターが担当しているので、演助の田代氏、制作の神村氏の目がだんだん虚ろになってきている。果たしてファイナルミックスに間に合うのか。昨日上がった「猫の恩返し」1ロール目のオールラッシュを試写室で社内スタッフ向けに上映。
夜の10時頃、三スタで美術館用作品を描いている舘野さんがおいしいスープを作って差し入れてくれる。しょうゆ汁に白菜やきのこが入った激ウマスープ。餅を入れたいと思ったのは私だけではないはずだ。
3月8日(金)
引き続き音響ハウスにおいて音楽録りが行われる。このままプリミックスに突入しファイナルまで一気に、と思っていたら、とてもここにはかけないハプニングが勃発。急遽ファイナルが3日延びることに。実はこれによってハプニングには関係ないところで「神風が吹いた」と喜んでいる人物が約一名。
3月9日(土)
ギブリーズ、音楽トラックダウンが行われる。
来週水曜日に行われるロール2のカッティングに向け、再び素材集めが行われる。今回は素材がまったくないカット数がロール1より少ないので、実は次の3,4ロールの作業を同時に進めている。こちらはお先真っ暗。
新制作候補鳥羽君と面接。来月から来てもらうことに。
3月11日(月)
朝の制作会議において、混乱した制作状況を立て直すため、それぞれ非効率に分散していた制作の仕事を4月から来る新制作も含めて配置しなおす。
3月12日(火)
昨日「猫の恩返し」の某スポンサーから送られてきたものを鈴木プロデューサーが社員に大放出。おおっ。各部署へ配る。一番人数の多い二階の作画部ではバーゲン会場さながらの状態となる。○○○がずいぶんあったので、早速巨大な鍋に○○をぶち込み、約40杯分の○○○を作る。大好評。
動画チェック坂本さんからチェック上がりが出ないと思ったら、1カット800枚のカットをチェックしている。1作品に1カットぐらいは不思議とこういう分厚いカットがあるものです。
ギブリーズのプリミックスがテレセンで行われる。動画も終わっていないカットがあったりして…。
3月13日(水)
午後から第二ロールのカッティングが行われる。タイミング撮影も多いが、キャラには結構色がついている、もしくは動撮なので結構見やすい。夜7時頃に無事終了。
今日もテレセンでギブリーズのプリミックス。明日からファイナルだ。
3月14日(木)
16時からテレビセンターにてギブリーズのファイナルミックスが行われる。作業は非常にスムーズに行われ、約5時間半で終了。メインスタッフは帰社。その後SRの作業やらなんやらで、古城君のみ会社に帰ってきたのは朝の5時。
3,4ロールのカッティングに向けて、原画のヘルプをどうするか、森田監督等と打ち合わせ。
3月15日(金)
「猫の恩返し」の某スポンサー会社の方々が来社。社内見学等々を行う。みっともないので慌てて机周りの片づけをするも全然間に合わず。
T2スタジオで背景スキャンのマシンを増やしたため、暗幕でより良い環境を作るべく色指定三笠氏とT2へ。伸縮ポール、暗幕、安全ピン、鎖を使って日光が入らないよう自作簡易暗室を作成。なかなかうまくいったかな。
3月16日(土)
演助の鶴岡氏が遅めの夕食を取ろうとしたところ、余っているはずの仕出し弁当がなぜかない。「最後に食べると残っていないことがあるんですよ。とほほ」と嘆いたいたのだが、誰かが注文をし忘れたのに気づかず食べてしまったらしい。あまりに哀れなので、買い置きのレトルトご飯とレトルトカレーをお恵み。
ようやく作監が波に乗ってきた。今週は50カット突破のペース。最低このペースは維持していきたいところ。
三スタで「猫の恩返し」の美術を手伝ってくれる男鹿さんの歓迎パーティが行われる。メインディッシュは伸さん自慢のキムチチゲ。これが実にうまい。1升半炊いたご飯があっという間に売り切れ。宮崎監督も「ご飯は大量に炊いたほうが美味い」と満足げ。
3月18日(月)
テレコムから原画が一気に14カットが上がってくる。素晴らしい。制作大慌てで枚数を数えて袋詰め。入れ替えでテレコムに初の動画入れ。今後徐々に入れを増やしていく予定。
3月19日(火)
夜「猫の恩返し」のラッシュチェックが行われる。先週末に入れた本撮が間に合わなかったため、リテークとテストラッシュのみ。ちょっと寂しい・・・。
3月20日(水)
毎回定期購読している「キネマ旬報」が送られてきた。今回は毎年恒例のベストテンの表彰が載っている号だ。ありがたいことに千尋が賞をもらったのだが、宮崎監督の写真の場所に、代理で出席した渡辺氏の顔が大写しで載せられていた。当然、社内中の話題を独占していた。ところで、一人石迫氏だけは、某電車の短編映画で、主人公の向かいに座り映画デビューを果たしているだけに「私が代理で出れば良かった」という顔をしていたとか。
3月22日(金)
メインスタッフルームのマック版QARが、いくつもの作業で共有されているため、森田監督のチェック用にと会社の片隅に放置してあったマック9600とG3にマック版QARを入れて活用を試みる。ところがどちらのマシンもハードディスクの容量が足りない事が発覚。明日外付けハードディスクを買い足すことに。
恒例の花見弁当が配られる。当初は月末に配られる予定だったが、さくらの開花が異常に早かったため、急遽弁当を注文することになる。ところで、多くの人が昼休みに近所ののさくらの木の下で花見をしようと外へ繰り出したものの、なんと突然の雨。泣く泣くバーで弁当を食べる人も多かった。
3月23日(土)
Firewireのインターフェースカードと80Gのハードディスクを購入し、森田監督チェック用のマック版QARを設置。ところで昨日のマックのうち1台をサーバー用に初期化したところ、原画段階で取り込んだ素材があったことが発覚。もちろん復旧もできずに、斎藤君が涙を流す。
3月25日(月)
「猫の恩返し」音響監督の林さんが来社。先週作ったスケジュール表を見せ、音響的にこれで良いかどうかを確認。一応の最終スケジュールがほぼ確定する。ところで結婚すると聞いていた林さんだが、2月末に入籍が終わっていることを本人が告白。「お祝いをしなきゃ、結婚は何時なんだ」と言いつづけていた宮崎監督になんと報告してよいやら。
3月26日(火)
朝10時から二馬力にて「猫の恩返し」と「ギブリーズ」の制作発表が行われる。出席者は原作の柊あおいさん、プロデューサーの鈴木さん、森田,百瀬両監督そして、主人公ハル役の池脇千鶴さん。さすがにこのような舞台は初めての森田監督は出社するなり「頭の中が真っ白」と不安を誘う一言。ところがいざ制作発表が始まるや、鈴木プロデューサーにも引けを取らぬ度胸を見せ、見事に大役を果たしたのでした。カメラが近くにあるだけで何も話せなくなる某氏は「う~ん、監督って本番に強い人がやる職業なのね」と納得していた。
3,4ロールのカッティングに向け、残りのレイアウトバックを3,4ロールに集中する作戦をとる。それに伴って発生する、5,6ロールを持っている原画マンが手空きになる可能性もあるが、それは状況を説明して納得してもらうしかない。
3月27日(水)
メインスタッフルームに原撮用マック版QARを設置するため、マック一台と22インチモニターを買いに吉祥寺へ。ところがどこへ行っても22インチモニターの在庫は無し。結局新宿まで車を飛ばして購入。
3月28日(木)
マッドハウスまで所用で行ったところ、以前ジブリにいた○富君とばったり。おお懐かしい。と、若かった彼も年齢を聞くともう三十路を過ぎていると言う。時間が過ぎるのは速い・・・。
3月29日(金)
林さんが来社し、まだ決まっていなかったルーン役の声サンプルを聞く。やけにぴったりした候補者がいたため、ものの数分で決定。
土砂降りの夜、色指定の三笠氏が帰ろうとしたところ、ジブリ三スタ横の畑で猫の鳴く声が聞こえる。ハッと思って目を凝らしてみたところ、生まれたばかりの子猫二匹が、畑の中に放置されていた。このままにしては死んでしまうので、一緒に帰るところだった永井さんと山崎さんがジブリに連れ帰り、知らせを聞いた猫好きなスタッフがミルクを飲ませたりして必死の介抱。なんとか命は取り留め、事無きを得る。それにしても、なんで雨の日に平気で畑に猫を捨てられるのか。あのまま放置していたら、確実に死んでいただろう。天気も考えると、誰かに拾って欲しかったのではなく、殺そうとしたとしか思えない。捨てたやつには、「猫の恩返し」ではなく、「猫の怨返し」がいくであろう。
3月30日(土)
明日夕方の便で動画チェック坂本氏、色指定三笠氏等がソウルへ向かう予定だが、その準備で大忙し。今回は月曜日にDRデジタルの動画チェックとペイントチェッカーらとの打ち合わせが目的。火曜日朝一の便で帰国予定。