2000年2月
2月1日(火)
11時から宮崎監督より、スタッフ全員に向け、「千と千尋の神隠し」のインが宣言される。直後、美術館作品を終了した4人から、作打ちを行う。その為、コンテ、キャラ表のストックがなくなり、急遽コピーすることに。順次作画インすることを考えると、これからさらに、コピーする必要がありそうだ。
「千と千尋の神隠し」のレイアウトがチェック23カット分アップ。
2月2日(水)
組み線のあたりマシンがけすることになり、演助にマシンとはなんぞや、と実習を行う。なかなかスジは良さそうだ。
怒涛の勢いで宮崎、安藤両氏から、レイアウトがあがっている。演助のチェックで止めているものもあるのだが、現時点で34カットのあがりがある。この流れに、原画も上手く乗ってもらわなければ。
・新作の作画用モデルを型どりする。シリコンという液体を硬化させて型を作るのだが、枠の目張りが不徹底だったため一部流れだしてしまう。なんとか流出は止めたようだが、本当にうまく固まるのだろうか。
シリコンを流し込む居村氏。もうすぐはれてお父さん。
2月3日(木)
本日、2スタ試写室のdts導入が無事終了した。これで現行のほぼ全ての音響システムに対応して、フィルムを流すことが出来る。
制作神村氏が、導入予定のカラーコピーを試すため、都心へでる。持ち帰ったコピーは、レイアウトの鉛筆線も、イメージボードの淡い水彩も、予想以上に再現されており、制作一同感激する。しかしコピーの担当者からは、「山田くんの時はボードの薄い色をだせず、すいませんでした。」といわれてしまったらしい。こちらこそ無理をいって申し訳なかったです、とは神村氏の弁。
2月4日(金)
美術スタッフが2スタに移った為、メインのブースに張り出すためのイメージボードを、カラーコピーする。量がかなりあったことと、並行してコンテのコピーと紙タップ作りを行っていたため、半日がかりの作業となった。しかし、今できることをしておかなければ、泣きをみるのも自分だということを、肝に命じておかなければ。
2月5日(土)
時は昼食時、ジブリに「た~らら~、らららら~」と竿だけ屋らしき音が響きわたる。しかし、よく聞いてみると、どうも「ぎょうざ~、ぎょうざ~」と言っているように聞こえる。空腹による空耳か、と思ったが、慌てて外にでてみると、何と本当に餃子屋さん。しかもその場で焼いてくれるという。とりあえず制作の何人かが食べてみると、これがなかなかの味。これで食のレパートリーが増えたか。
2月7日(月)
「千と千尋の神隠し」がかなり順調に進み、現時点でレイアウトが55カット、原画も5カットあがっている。新人原画の頑張りに期待したい。
久しぶりに、夜泣きのラーメン屋さんが、塩ラーメンをひっさげてやってくる。時間がよかったのか、10人近くがおしかける大盛況。塩ラーメンもおいしく頂き、大満足。
2月8日(火)
総務一村氏も絶賛の、武蔵小金井の旭川ラーメン屋さんを食しに行く。制作田中氏(因に生まれは一応旭川)にいたっては、「今まで食った中で、最高のラーメンだ。」とまでのたまう。
新作の作画参考用モデル、増産開始。型に流しきる前にレジンキャストが硬化するなどあったが、幾つかはぬけてきた。50個への道はまだ遠い。
2月9日(水)
美術館作品のアフレコを、2スタ試写室にて、一部行う。録音を行った二人は素人ながら、なかなかの好演。特に徳間の森吉女史は、玄人裸足の大熱演で、喝采を浴びていた。ところでもう一本秘密の作品のライカリール用仮アフレコ(絵コンテに合わせて声を入れる)も行われる。
2月10日(木)
音響の若林氏来社。美術館作品の音響スケジュール、及び、次回作等について、入れ替わり立ち替わりで打ち合わせを行う。
某メーカーより、プレゼン用にフライトシミュレーターのソフトが持ち込まれる。幾つかの飛行機の中に、○○○○を使いたいということらしい。宮崎監督は、「飛行挺の機体に、びびりがないな」などと感想を述べるにとどまっていたが、実際に操作した社員からは、すっかりはまる者も現れた模様。
2月12日(土)
7時半から10時まで、会議室で企画検討会が行われる。今日はIGから沖浦、神山両氏、マッドから中村氏も参加し、様々な意見が飛びだし、面白い企検となる。宮崎監督も「面白かった」と一言。
2月14日(月)
今日はバレンタインデーのため、朝から社内でチョコレートが飛び交う。
朝から奥さんとともに病院に行っていた居村氏が夕方出社。なんでも陣痛が始まっているらしい。「奥さんについててあげなくていいのか」と宮崎監督や制作部の面々は自分のことのようにそわそわ。いよいよ明日にはお父さんか。
ついに制作田中氏にi book支給。今までスローなマシンで苦労していただけに大喜び。でも制作部のねずみ色の机にまったくフィットせず。
2月15日(火)
朝から「赤ちゃんはまだか」と監督共々連絡を待つも夕方まで連絡はなし。ようやく電話がかかってきたら「陣痛が治まってしまった」との連絡。一同がっくり。
2月16日(水)
業務の野中氏と出版の田居さんにもibookが支給されたが、以前のマシンがモノクロモニターのPB5300だったため、その速さとモニターの美しさにお驚きを隠せない様子。ただ野中氏は、せっかくカラーモニターになったにもかかわらず、「カラーは目が疲れますね」とわざわざモノクロに設定を換えて使用している。ちなみにそのスクロールの速さにも「速すぎて見えませんね。遅くするボタンはないんでしょうか」と名言を吐いている。
今日も居村氏は自宅待機だが、まだ生まれる様子がないようだ。スタッフも宮崎監督も「な~んだまだか」とそろそろ飽きが来ている様子。
2月17日(木)
日本テレビ奥田さんが、野中氏と例の旭川ラーメン屋に行くため、10時ころ来社。「麺とチャーシューとスープが複雑にからみあって私のおなかに攻め込んできました」とマニアックな感想を漏らしつつ、大満足で帰って行った。
2月18日(金)
居村氏が久しぶりに出社。みんなから赤ちゃんのことを聞かれるも、「いや~まだなんです」とひたすら照れるばかり。
美術館作品ラッシュ上映。今回は稲村班だけでなく、芳尾班のラッシュも初めて行われる。ころころと走り回る子犬の姿に、試写室内に思わず笑みがこぼれていた。
2月19日(土)
美術館作品のうち1本は、子犬がメインとなるため、お犬様の録音が、試写室にて行われる。犬は、撮影古城氏の実家より連れて来られた、生後1ヶ月の小犬4匹。しかし、子犬は眠っているばかりでなかなか声をださず、かなりの時間を犬待ちにとられてしまう。しかし、お腹が減ると「クーン、クーン」声をだしはじめ、半日に及ぶ録音は終了した。
夕方5時から新宿安田生命ホールにてアニドウ主催による「近藤喜文の仕事」出版記念イベント「近藤喜文のアニメーション」が行われる。あらためて昔の作品から最近作までを一度に見て、その仕事の確かさを再認識。それにしても、とてもたくさんの人達が来てくれて大感激。
2月21日(月)
某「トイストーリー2」の試写を、試写室にて行う。その面白さに場内大受け。それにしても居村氏以下、おもちゃマニアには耳の痛いストーリーでした。
制作業務部の新しい車が到着する。
居村氏の子供はまだ産まれない。今日は私が予想した日だが、駄目なようだ。意外と宮崎さんが予想した28日が良い線かもしれない…。
2月22日(火)
明日の講演会に備え、木場までOHC(書画カメラ)を借りに行く。戻ってすぐ試写室で実験。思っていたより鮮明に映るので、一同一安心。
制作業務部にて、出欠や遅刻等、勤務状況についての話し合いが行われる。
美術館作品のフイルム出力の準備がはじまる。
2月23日(水)
東京大学大学院工学系研究科教授の畑村洋太郎氏に来てもらい「失敗に学ぶ」と題した講演会が行われる。会場の試写室は超満員。とても面白い講演だったため、質問の時間がかなり延び、予定を1時間もオーバーし、夜10時半まで行われる。
「トイ・ストーリー2」の監督ジョン・ラセターが子供たち三人を連れて宮崎監督を訪問。子供がかわいいのなんのって。
2月24日(木)
古城君が珍しく体調不良でお休み。
総務部、制作部の新規通信機器およびラックの設置が行われる。おかげで一時インターネットや社内サーバーが使用不能になる。
美術館作品の音楽、効果打ち合わせ行われる。音楽、音響、効果の三者が全員集まるのは、今日がはじめてのこと。全体の意志疎通と、今後の進行が話し合われた。
ムゼオの篠原さんより、知り合いにプレゼントする自転車を見繕ってほしいと、作画斉藤氏に連絡がある。しかし、斉藤氏に頼むかぎり、並の自転車ではすまないのではないだろうか。
2月25日(金)
最近肩こりで片頭痛に悩まされている神村氏は、先週宮崎監督の勧めで鍼に行ったのだが、よっぽど気持ち良かったのか、今日も再び鍼へ。
7時半より、「ホンダの挑戦! 自立歩行人間型ロボット」と題し、本田技術研究所和光基礎技術研究センターの広瀬真人氏の講演会が開かれる。先日同様床に座る人も出る超満員。講演終了後も質問攻めで、終わったのはやっぱり10時半。
2月28日(月)
○○の役割分担を決める制作会議が行われる。
夜10時過ぎに「妻が分娩室に入った」と居村氏から電話が入る。「28日に生まれる」とただ一人予想していた宮崎監督は「おれの勝ちだ」大喜び。しかし「初産は時間がかかりますよ」と冷静に言うものも出現。それに対して宮崎監督は「29日に生まれると、うるう日なので出生証明書を前後にずらすはず。前にずらせばやっぱりおれの勝ちだ」とあらためて勝利宣言。
2月29日(火)
昨日中に居村Jrが生まれる。母子ともに健康とのこと。しかし居村氏は子供が産まれた瞬間、なんと病院近くのコンビニで買い物中だったらしく、「コンビニ出産」と会社中の非難を浴びている。ところでジブリでは、宮崎監督を先頭に居村氏の机の飾り付けで大騒ぎ。あっという間にとても仕事ができる机ではなくなってしまう。「たんなる嫌がらせでは」との噂も・・・。
パソコンのデスクトップや、机の引き出しにも数々の仕掛けが施されているのだ。因に命名正子となっているが、これは宮崎監督が勝手に書いたもので、居村氏はまったく承知していない・・・しかも「まさこ」は居村氏の母親の名前らしい。
「パラッパラッパー」のロドニー・アラングリンブラッド氏が来社。社内はサインを求める人でパニック状態。しかし、一人一人丁寧に答えてくれたロドニー氏はとてもシャイですてきな青年であった。