ジブリ日誌番外編:イヒラヨウコの東宝宣伝キャラバンレポート part-1
日時:2010年2月3日(水)~2月5日(金)
参加メンバー:
鈴木敏夫プロデューサー
日本テレビ奥田誠治エグゼクティブ・プロデューサー
東宝宣伝部上田美和子プロデューサー
名古屋、大阪、福岡東宝宣伝部の方々
2月3日(水) 名古屋 晴れときどき雪
9時24分、名古屋駅に到着。中京テレビにご挨拶に伺いました。
「中京テレビ」
広い応接間にご案内頂き、7人と対面する形で着席すると、奥田さんが口火を切って、日ごろの感謝とアリエッティの宣伝協力を正式にお願いしました。中京テレビは日本テレビの系列局なのです。そして、現在劇場で上映している特報映像をテレビモニターでご覧頂き、鈴木さんからアリエッティ企画の経緯、作品の内容を説明。原作は「床下の小人たち」で、企画発案者は宮崎駿。40年前に高畑さんと作りたかった作品である、と。
庭好きの宮崎駿は、この原作を読んで荒れた庭を想像し、そこから派生して古い屋敷、老婆と病弱な男の子という登場人物を組み立て、その床下に住む小人一家のキャラクターを考えました。物語は12歳の人間の男の子と14歳だけど身の丈10cmの小人の少女アリエッティが心惹かれあうというもの。宮崎さんはそういう設定だけでゾクゾクする人。「人間に見られてはいけない」はずなのに、むこうみずなアリエッティは、冒頭で人間の男の子に姿を見られてしまう。見られないと映画は始まらないから(笑)。
また、アリエッティ一家の家具はすべてお父さんの手作り。人間の家から借りてきたものを、自分たちのサイズに作り変えて生活している。人間の屋敷は出来合いのもので成り立っているけれど、床下の小人たちは家具から小さな食器に至るまで、何でも自分たちで作り知恵と工夫をもって生活しているということ。原作には文明批評が大事な要素として描かれているけれど、映画では特に強調はしない。それをやると映画が辛気臭くなるから。
また、当初「小さなアリエッティ」というタイトルだったものを、鈴木さんが原作にある「借りぐらし」を使おう提案して「借りぐらしのアリエッティ」となった。
監督は“麻呂“こと米林宏昌。なぜ彼だったかというと、腕がいいアニメーターであるということと、宮崎さんに監督は誰がいいかと聞かれた鈴木さんが、「麻呂はどうですか?」といい、宮崎さんは「鈴木さん、いつから考えていたの?」と返し、「2、3年前から」というと、その言葉に納得した宮崎さんが「わかった。麻呂でいこう」と決意し、本人に伝えます。その場では返事を持ち帰った麻呂さんは、数週間後、心を決めて監督を引き受け、3階の準備室が稼動し始めました。
そして、宮崎さんからアニメーターに向けてジブリの3年計画を発表。2010年、2011年と2年連続、ジブリは若い監督で作品を作ることになります。
そして次は、脚本をどうするかという問題。この時代、不景気の時代に通用する普遍的なものは何か。それは恋しかない、と宮崎さんは考え、小人の女の子と人間の男の子の禁断の恋をやることを決意したといいます。人間と小人の恋は原作にはなく、宮崎さんが考えたものです。そして、鈴木さんはこうも言いました。「時代のせいにしてくよくよしていても仕方がない。どんな時代でも美しいものは美しいんだ、と宮崎は言っている」とのことでした。
名古屋にまつわる話として、トヨタの話も出ました。新人22名+先生として先輩アニメーター数名が愛知県豊田市の工場の中に間借りして作品を作っています。トヨタ社員2万人、契約1万人、一日に訪れる来訪者3万人の計6万人が行き来しています。
そこでアリエッティを上映して前売券を販売したらどうか? という鈴木さんの提案に、関係者が、名古屋寄りの三好というところに映画館(movix)がある。年間興収が全国で20位。そこでどうだろう、と答えると、「トヨタの中に映画館を作っちゃえばいいのに!」と無理難題をいう、鈴木さんでありました。
こういう時代に何を作るべきか。「アバター」はなぜ大ヒットしているのだろう、という話になり、「アバター」は文化人類学の映画で、近代対前近代をやっている、と鈴木さんは言います。「簡単に言うと、主人公が前近代に行ってしまって、近代のアメリカと戦っているようなものだよね。表現としては、もののけ姫やナウシカの世界が入っていて、奥田さんは国粋論者だから、ジェームス・キャメロンにまで影響を与えていることがすごいと、喜んでいた」と伝え、奥田さんは隣で笑って聞いていました。
あとは中日ドラゴンズの話で15分くらい費やし、中京テレビを後にしました。
お昼は名古屋名物ウナギのひつまぶしを頂きました。
ここでも「アバター」の話になり、その他のヒット作「THIS IS IT」、「ワンピース」と共通する部分は、“願い”とか“祈り”“ 希望”ではないか、と鈴木さんは言います。マイケル・ジャクソンは死んであの世に行ってしまってから、神様になった。アバターも、あっちの世界に行って、そこに魅了されてしまうわけだから。今の時代の気分と関係があるのではないか、という話に一同は納得していました。
「劇場見学」109シネマズ名古屋
愛知県名古屋市中村区平池町4-60-14ラ・バーモささしま2F
副支配人:大路真一郎さん
1884席、10スクリーンをもつ映画館。その中でもシアター7(座席数412)のIMAXシアターで上映している3Dの「アバター」は、日本語吹き替えが朝の一回だけということも関係しているのか、朝の11時から満席。カーブしている画面と高性能メガネの効果も絶大。画面に奥行きがあって映像もとても綺麗だと思いました。
ただ、その背景には知られざる劇場スタッフの苦労がありました。3Dメガネの消毒です。バックヤードの部屋も見せて頂きましたが、満席が続いた日はそこでフレームとレンズの清布で夜中の3時になることも。3Dメガネですが、下記のとおり4タイプあります。
1)REAL D(リアルディ)
メガネはシンプルなもの。1個60円くらい。しかし、観客1名に対してライセンス料が発生。使用後回収なし。(リサイクルをしているところもあるそうですが)プロジェクターの前に機器を挟み、スクリーンは白から銀に張り替えるといった設備工事が必要だそうです。ワーナーマイカルがこの手法で3D上映をしています。
2)XpanD(エクスパンディ)
メガネに機械仕掛けあり。一個6000円(税込)。ボタン電池を使用。紐で頭部周りを調節することができます。試写室から発信した信号がスクリーンに反射されて観客のメガネレンズに届くそうです。従来のスクリーンで投影可能なので、シネコンは上映スクリーンを変えることができます。TOHOシネマズ、MOVIXが採用しています。
3)Dolby 3D(ドルビー3D)
メガネに機械仕掛けはないけれど、レンズ部分が相当凝っていて、発色が美しいそうです。従来のスクリーンで投影可能で、Tジョイが導入しているそうです。1個数万円という(最近は値段が少し下がったそうですが)高価なメガネです。
4)IMAX 3D(アイマックス3D)
カーブしているスクリーンで上映され、IMAXデジタルシアター専用3Dメガネで観ます。1個数千円くらいだそうです。
現在、日本全国で3Dスクリーンは360スクリーン。TOHOシネマズは39サイトで3Dを採用。ワーナーマイカルも、同じくらい。通常料金プラス300円。配給会社に納める金額とメガネ代金、そして作業量を考えると、入場料の値上げも仕方のないことという劇場の大変さが伝わってきました。
今後3D上映はどうなっていくのか。4月17日公開の「アリス・イン・ワンダーランド」については、「アバター」に予告編がついているのでお客様の反応は良く、劇場の期待は高いそうです。アリスの劇場内のスタンディとバナーは少なくて3種、多くて6種類がキャラクター別に飾られていました。
「劇場見学」ミッドランド スクエア シネマ
名古屋市中村区名駅四丁目7番1号
支配人:望月信宏さん
今まで見たシネコンの中でもっとも豪華な建物でした。中央が吹き抜けになっていて、エレベーターはガラス張り。各フロアーのブランドショップが一望できます。ミッドランドスクエアはオフィスタワーと商業タワーに分かれており、オフィスタワーは、トヨタ・毎日ビルディングともいい、トヨタのショールームや企業のオフィスとなっています。商業タワーの5階がミッドランドスクエアシネマという映画館です。
1270席、7スクリーン。このシネマコンプレックスは、天井が高くて通路が広い。そしてチケットのもぎりを過ぎると映画の宣伝ポスターはライトボックスに入って飾られているだけで、大きな特徴はスタンディが一切置いていないこと。赤い丸が描かれた絨毯に、ほの暗いライトアップで、まるで外国の最高級ホテルの廊下を歩いているよう(アリエッティのバナーは奥の正面に飾っていただいてました!)。全座席が本牛皮張りシートという、名古屋独特の派手な演出にも驚きました。
この日はレディースデーということもあって、ロビーには着物を着た女性や60代~70代の女性の集団も目立ちました。山田洋次監督の「おとうと」と「アバター」が人気でしたが、「おとうと」は60代の夫婦も見かけました。客足は朝から夕方までが強いそうです。「アバター」は、内容よりもニュース性が強く、NHKやフジテレビでの報道を見た方が「3Dは劇場で見ておかなければ」という心境で、訪れているとのこと。これは社会現象になるかもしれない、と望月支配人は大きな目をしておっしゃっていました。
「名古屋キャラバン発表」
さて、いよいよ劇場の館主さんたちが集まって、東宝が配給する映画作品のラインナップ発表会です。場所は、名古屋国際観光ホテルの宴会場。午後の部、一番目がアリエッティの紹介時間でした。東宝宣伝プロデューサー上田美和子さん、日本テレビエグゼクティブ・プロデューサー奥田誠治さん、そして鈴木さんが登壇し、作品を説明しました。
最初に、主題歌を歌うフランス人のセシル・コルベルさんのミュージックビデオを暗転して上映。「向こうは別の世界、ほら蝶々が待ってる、私を待ってる」というフレーズが、神秘的に感じたのは私だけでしょうか。とにかく、会場はポニョとは打って変わる曲調の音楽に聞きいっているようでした。
そして曲が終わると鈴木さんより、セシルさんについての説明がありました。彼女の一通のCD&手紙が、鈴木さんと米林(麻呂)の心を動かしたこと。ケルティック・ハープの音色とセシルさんの声が、今回の小人の世界と合う、というのが鈴木さんの直感だったこと。セシルさんは言語が得意で、今回は日本語に挑戦したいという本人の強い希望により歌ってもらったところ、ミステリアスで面白い、ということになり、主題歌で起用することにしたという経緯。また、日本語の仮歌を送って24時間以内、つまり一晩で歌をつけて送り返してきたときは、なんて耳がいいのだろうと驚いたそうです。今回も「ゲド戦記」同様、作品を歌で押し出していきます、キャンペーンでは彼女も一緒に廻り、歌も歌います、ということでした。
映画の説明としては、企画・脚本は宮崎駿。「鈴木さん、アリエッティをやろう」と彼が言ってきました、と話が始まります。そして話の締めくくりは「どんな時代であれ、美しいものは美しい、生きていく意味がある、それを感じることができたらこの映画は成功すると思っている」と伝え、新人監督の麻呂さんに関しては、「映画ができたところで皆様にご判断頂きたい。それまではマスコミやインタビューに監督を出すつもりはない。制作は困ったことに遅れていますが、皆様にまず観てもらえるよう、そしてそのときには是非、劇場で盛り上げて頂きたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します」ということでした。
引き続き、奥田エグゼクティブ・プロデューサーの言葉がありました。
「日本テレビのキー局でも、金曜ロードショーや事前特番などでアリエッティの最新情報を伝えて盛り上げていきます。そして2月5日の『金曜ロードショー』でポニョを初放送するのですが、その事前特番で初めてアリエッティの特報をテレビでオンエアします。今後も全面的にバックアップしていきますので、よろしくお願い致します。
最後に、僕はアリエッティの絵コンテを実際の秒数でつないだ映像(ライカリール)というものを観たのですが、本当に面白かった。トトロを観て映画館を出たとき、風が吹いてきて、緑が揺れたら、トトロがいるかもしれない、と思ったあの感覚。この作品も小人が自分の家に本当にいるのではないか、と思うことができる作品です。よろしくお願いいたします」
最後に上田美和子さんが、時間の関係上、かなり駆け足でしたが、大事なポイントを絞って宣伝状況を説明されました。公開は7月17日(土)に決定。情報解禁は2月5日の日本テレビ「金曜ロードショー」事前特番にて。前売券の発売は4月17日(土)。特典はアリエッティ誕生までを集めたキャラクター集のミニ本1と、床下の家の背景集のミニ本2です。
インターネットでは既に、ジブリの西岡純一広報部長の映像ブログが始まっており、一日一回、アリエッティに関する新情報を伝えています。主題歌を歌うセシルさんですが、コンサートも予定していて、キャンペーンにも参加する予定。キャンペーンは7月1日からスタート、8月にはロックフェスにも参加予定。
パブリシティの大きな柱は、日本テレビの全面バックアップと、NHKの番組2本。ポニョ同様ドキュメンタリー番組が決まっており、既に密着取材が始まっている。また、セシルさんのコンサートの様子を収録した番組でも一本制作予定。
そのほか、ナショナルスポンサーとして大型タイアップが進んでおり、テレビスポット他、大きな宣伝展開が期待される。また、製作委員会各社の全面協力と、映画の原作である「床下の小人たち」を出版している岩波書店の協力もあり、電波×タイアップ×音楽×書店×WEBというあらゆるメディアを総動員したブームアップ作りをしていきますので、劇場の宣伝もどうぞよろしくお願いいたします」とのことでした。
14時34分に名古屋駅を出発し、一行は大阪へ移動。
"のぞみ"で、1時間ほど。15時30分から4箇所劇場を見学しました。
「劇場見学」TOHOシネマズ伊丹
兵庫県伊丹市藤ノ木1-1-1 イオンモール伊丹テラス内4F
副支配人:谷池隆幸さん
駐車場2800台を完備しているイオンモールの4階に車を駐車し、入り口を抜けると中央に吹き抜けがあり、対岸に劇場がありました。アリエッティのポスターは、遠くから見ても緑と赤が目立っていい感じです。いろんなポスターを見ていて、気付いたのですが、青い色を基本にしたものが多かったです。
1900席、8スクリーンを持つこの映画館は、伊丹市唯一の映画館で、関西地区の中でも梅田、西宮に続き3番目に集客があるそうです。一人の女の子が「ファンなんです」と鈴木さんに話しかけ、3人で写真を撮ることに。「真ん中に入っちゃうと邪魔しちゃうけど」という鈴木さんに「いいんです!」とキッパリ言う彼女と小声で答える彼。大阪の女の子は行動力があるなぁと微笑ましく言う鈴木さんでした。
キャラメルポップコーンも香ばしくて、今まで食べた中で一番美味しかったです。
「劇場見学」TOHOシネマズ西宮OS
兵庫県西宮市高松町14-2 阪急西宮ガーデンズ5階 501番
支配人:西村泰明さん
阪急西宮スタジアム跡地に建設されたショッピングセンター内に、2008年11月26日にオーエス㈱との共同経営でオープンしたそうです。2200席、12スクリーンは梅田に続いて関西で2番目の規模。また、プレミアム・スクリーンがあり、ペアシート18ペア36席は、席と席の間も物を置く台があってゆったりしていました。
鈴木さんがアリエッティのバナーに西村支配人宛てに“よろしくメッセージ”を書き始めると、恥ずかしそうに微笑んでいらっしゃいました。
「劇場見学」TOHOシネマズなんば
大阪府大阪市中央区難波3-8-9 東宝南街ビル内
支配人:横田浩嘉さん
なんば駅から歩いて1分。2006年9月にオープンした「なんば丸井」と「TOHOシネマズなんば」の複合施設。当時、丸井の大阪初出店だったらしいです。ビルの1階~7階が丸井で、8階~11階が映画館。レディースデーの18時ということもあって、ロビーには若い女性が多かったです。1960席、9スクリーン。最大スクリーンの2番シアターは、スクリーンサイズが6.9m×16.6mだそうです。
プレミアム・スクリーンの前にあるロビーは高級クラブの一角のよう。中央にあるガラスのライトの小さいものが、プレミアム・スクリーンまでの通路にも両サイド設置されており、一本○十万円とか。これは東宝関西支社営業部長の松本さんの趣味が反映されていると、塚本さんが嬉しそうに話してくれました。ちなみに支配人の横田さんは、ポニョのときは福岡にいて、宮崎監督ともどもお世話になった人でした。
「劇場見学」TOHOシネマズ梅田
大阪市北区角田町7-10 HEPナビオ8F (シアター1~8)
大阪市北区角田町5-1【アネックス】(シアター9~10)
営業本部劇場運営部西日本統括室長 兼 九州統括室長 前田徳貞さん
劇場運営部西日本統括室スーパーバイザー 小野涼介さん
劇場運営部西日本統括室スーパーバイザー 小林清剛さん
梅田駅から徒歩5分。約2700席、10スクリーンをもつ西日本最大級のシネマコンプレックス。ビル名のHEPとは、「HANKYU ENTERTAINMENT PARK」(阪急エンターテインメント・パーク)の頭文字からとったもの。1階から5階まで阪急百貨店メンズ館となっていて、最上階にTOHOシネマズがあり、直通エレベーターであがれます。北野劇場(1016席)と梅田劇場(920席)と梅田スカラ座(937席)ナビオシネ4とナビオシネ5の5館まとめてシネマコンプレックスに改装されたそうです。
シアター1(座席数747)が、旧北野劇場。シアター2(475席)が旧梅田スカラ座。シアター3が旧梅田劇場。シアター4が旧梅田スカラ座の2階席部分を分割・改装。シアター5が旧梅田劇場の2階席部分を分割・改装。シアター6が旧ナビオシネ4、シアター7が旧ナビオシネ5というふうに。そういう歴史を聞くと、確かに館内は途中で二股に分かれていたり、入り組んでいた気がしました。
夜ご飯は、レタスと豚肉のしゃぶしゃぶを頂くお店に行きました。企業秘密といわれるスープ(鶏がらスープと大根おろしとラー油は入っているらしいです)にレタスと豚肉を浸し、ポン酢で頂くのは非常に美味でした。
2月4日(木)大阪 曇りときどき晴れ
「よみうりテレビ」
仕事の机が並んでいる横の会議室で、座ったとたん鈴木さんの第一声は「ここは禁煙ですか?」でした。よみうりテレビは喫煙に対してさほど厳しくなく、「どうぞどうぞ」と灰皿を出してくださり、奥田さんは鈴木さんの煙草の吸い方は煙を肺の中まで吸うから隣にいてもぜんぜん煙くない、空気清浄機のようなものだ、と冗談を言っていました。
喫煙の話をすればおのずと話題に出てくる高畑さんの禁煙レポート(ジブリ発行の月刊誌「熱風」1月号に掲載)。そして、高畑勲監督がタバコをやめるきっかけとなった日本テレビの氏家齊一郎会長主導の高畑さん、宮崎さん、鈴木さん、奥田さんの一日がかりの健康診断の話になりました。そして氏家さんの話から、鈴木さんがジェットヘリで氏家さんと一緒に神戸に行った話など、地元の話題で大半の時間が過ぎました。
で、最後に、鈴木さんより映画の紹介をしたのですが、まずは劇場で上映している特報を見て頂こうとしたところ、テレビモニターに接続されているのは、VHSデッキだったとわかり、急遽ハンディタイプのDVDレコーダーをご用意頂き、小さい画面をみなで食い入るように見ました。これは、よみうりテレビに限ったことでは無く、テレビ局にはDVD再生機が少ないようです。
現在、新人監督の麻呂が、高畑・宮崎監視の下一生懸命映画を作っていて、企画・脚本・設定まで考えた宮崎さんがどこまでこの作品にかかわるのか、監督は宮崎さんの言いなりになるのか否か、スタッフはそこに注目している。しかし今のところ、絵コンテを自分の力で書き上げ、それを宮崎さんに見せないことを決意した監督は神経が太く、制作はいつも以上に遅れているものの、「(本当に映画は公開までに)できるのだろうか」とメインスタッフの前で発言するなど“大物ぶり”を発揮しているので、これは監督として期待できると思う、と伝えました。
最後に奥田さんからも、2月5日のポニョ初オンエアの際、事前特番を組んでいて、その中でアリエッティの紹介をすることや、これから「金曜ロードショー」やその他事前特番を組んでいくことや、7月からキャンペーンもスタートすることなどを織り交ぜ、ご協力をお願いします、といった話がありました。
昼食は、なんばのよしもとのそばにある「千とせ」で肉吸を頂きました。“肉うどんのうどんなし”と、卵かけご飯のセットメニューです。お昼ご飯にはちょっと早い11時30分という時間だったにもかかわらず、次から次へ客足は途切れることなく、客の回転率は高く、私たちもあっという間に食べ終えて、近くの喫茶店へコーヒーを飲みにいきました。
「千とせ」店内に飾ってあった書を見た鈴木さんが、署名のところを指さして、その人があまりに有名な人だったので「この人もここで食べたのですか?」と聞くと、「いいえ」と。「ではこの人は?」と聞くと「この人の名前で書いてもらったんです」という話に、大阪人の本質を垣間見た気がしました。
「大阪キャラバン発表」
名古屋に続き、2回目のラインナップ発表会です。場所は、阪急インターナショナル・ホテルの宴会場。このホテルは、東宝の関連会社です。前回と異なり、少し横長のホールで、右隅に金の屏風が立てかけられ、その前での発表でした。左から美和子さんの上司でいらっしゃる持田さん、美和子さん、鈴木さん、奥田さんの順で座りました。
まず主題歌を歌うセシルさんの映像を見て頂き、今回は映画音楽をフランス人の方に歌ってもらっていて、ケルティック・ハープは小人の話にぴったり、という鈴木さんの話で始まりました。そして主題歌を日本語にした経緯を少し話してから、キャンペーンを一緒に廻ってもらう可能性があるので、よろしくお願いいたします、と劇場館主さんたちに応援をお願いしました。
映画の話としては、企画・脚本・設定は宮崎駿。若い人に映画をやってもらうとき、主たるものはプロデュースサイドで決めるべきであるというジブリの姿勢を伝えました。
また、設定のひとつとして、庭には宮崎さんのこだわりがあり、荒れた庭が好きであるということ。それは何か物語が始まりそうで、小人がいると思えるような庭。
2つめの設定としては、「借りてきて」「暮らしている」。待ち針など小さいものがいつのまにかなくなっている、という経験を誰もがもっていると思う。それは床下の小人たちがこっそりともっていったという話。借りてきた、といっても盗んでいるに等しいわけですが、それを父親が知恵と工夫を凝らし自分たちのサイズに作り変えて使っている、ということ。
それから3つめの設定として少年と小人の女の子の恋物語。身長差がある2人がどう心を通わし、どういう結末になるのか。人間の男の子を通して描く、小さく繊細なものを大事にするということもこの作品で大事な要素。そして何より禁断の恋を宮崎さんが好きであるということ。
このあと、鈴木さんは、信じがたいことに話しながら寝ていたらしく、私もノートをとっていませんでしたが、最終的には、「制作が遅れているけれど、スタジオ中この映画にとりかかっています。出来上がったら映画の評価を頂くとともに色々とご協力をお願いしたい。制作、宣伝も大事だけれど、最後は映画館の大きな協力が無いとどうにもならない。どうぞよろしくお願いします」と締めくくり、会場内は拍手に包まれました。
奥田さんからは主題歌について、話がありました。ジブリは今までも3作品、「紅の豚」「耳をすませば」「おもひでぽろぽろ」と、外国の人の歌を起用しているけれど、今回はフランス人が日本語で歌うという特別なもの。昔のベッツィ&クリスを思いだした(と言うと、会場で奥田さんと同世代、それ以上の方が数人賛同なさっていたようでした)。ポニョは直前までCDが全然売れなかったけれど、セシルさんの歌はもう少し前から動くのではないかと思っている。キャンペーンでもセシルさんは各地域で歌を歌いますので、希望される映画館は東宝さんでも、日本テレビ系列局直接でもかまいませんので、ご連絡を頂ければと思います、ということをお話されていました。
この後一行は、伊丹空港に移動し、17時前に福岡空港着。
「劇場見学」TOHOシネマズ トリアス久山
福岡県糟屋郡久山町大字山田1044-2
マネージャー:大石淳一さん
福岡の交通手段は車が多いそうです。娯楽施設はイオンなど大型ショッピングモールとの複合施設として企画されている場合があり、広い敷地面積を要するため、郊外にある場合が多いです。このシネマコンプレックスは、日本最大級のオープンモール、エンジョイタウントリアスのイーストゾーンに位置し、全14スクリーン2402席と、TOHOシネマズ最大のスクリーン数を有し、駐車場は4200台完備されています。プレミアム・スクリーンは、各座席の間隔がゆったりとしている全席リクライニングシートを設置。また、専用ラウンジもあるそうです。
「アリス・イン・ワンダーランド」のバナーがアリエッティを取り囲むように両サイドに2枚ずつかけられていて、奥田さんは“アリ”つながりだ、と笑っていました。各作品のスタンディを見ていて、アリエッティのスタンディはどうするか、という話になり、葉が細かくワッと前に飛び出してくる、そしてその合間を縫ってタイトルがワッと前に飛び出してくる、飛び出す絵本みたいな、これが本物の3Dだというようなスタンディはどうだろう、などと考え始めました。
また、これは他の劇場での話だったかもしれませんが、劇場から縦よりも横のバナーがほしいという要望があるとも聞き、4月17日の前売券発売までに何を作るか、という話になり特報で使った庭の全景の絵をシネマスコープのサイズにして作ったら、見ごたえがあるねとも話していました。
「劇場見学」ユナイテッド・シネマ福岡
福岡県福岡市中央区地行浜2-2-1
ホークスタウン内ホークスタウンモール2F
支配人:大谷貴之さん
2387席、10スクリーン。交通手段はバスか車という場所。隣にソフトバンクのホームグラウンド、福岡Yhoo! JAPANドームがあり、野球の試合がある時は、モールの駐車場はすぐにいっぱいになってしまい、夕方までの集客が勝負だそうです。それでも、東宝の新島さんが言うには、ユナイテッド・シネマ福岡の集客数は、福岡1位の「キャナルシティ」、2位が「TOHOシネマズ トリアス久山」につづく第3位だそうで、大健闘しているようです。
そこで、大谷支配人が、3位の座に満足することなく力を入れていることのひとつが割引券の配布で、以前保育園で8タイトルの割引券を4万枚配布したところ、1割がその券を使って来場したそうです。先生からもらったチケットを園児は捨てない。親御さんに渡す確率が、知らない人が配布しているときよりも、ぐっと上がるそうです。こういった活動を継続していきたい、とおっしゃっていました。
光熱費等建物の維持費はどのくらいかかっているのか?という鈴木さんの質問には企業秘密ですからと答えず、「君は当事者意識があるんだね」と言うと、苦笑いをされていました。というのも、鈴木さんは各地のシネコンで光熱費がいくら掛かっているのか質問をし、みなさんから答えを引き出してきたのです。
その後、コーヒーをご馳走になったとき、「食品とかはどこが入っているの?」と聞くと、その時は「オザックスです」と答えていました。慎重な方だと感想を持ちましたが、鈴木さんがアリエッティのバナーに大谷さん宛ての大きなメッセージを書き始めると、「嬉しいです」と笑顔になりました。
本日の劇場視察は終了し、ホテルに一度戻りました。やっと夜ご飯です。食事はふぐやイカを中心とした新鮮な魚のお刺身を頂きました。ひれ酒も一杯頂き、味が染み出ていて美味しかったです。
奥田さんは仕事のため、いったん神戸に戻るということで、夜の9時前に、お店を出ました。なんでも、深夜12時過ぎに古いビルを一棟壊す大爆発シーンの撮影があるんだそうです。奥田さんは「福岡から神戸まで新幹線で2時間半もかかるなんて知らなかった」と言って博多駅に向かいましたが、戻りは朝一番の飛行機で帰ってくると話していました。あとで聞いたら、爆発シーンの撮影はすでに終わっていて、間に合わなかったそうで、とにかく、奥田さんの行動力とエネルギーには関係者一同、驚いていました。
2月5日(金)福岡 晴れ
奥田さんは朝一番の飛行機で帰ってくると、「ポケモン」のプロデューサー久保さんと朝食を済ませ、待ち合わせの時間にさっそうと現れました。やはりすごい方です。
今朝は福岡放送にご挨拶に向かいました。立派な建物でした。通路も広く、吹き抜けもあり、応接間も豪華でした。下記の方々が迎えてくださいました。
「福岡放送」
対面する形で着席すると、「ここは禁煙ですか?」と鈴木さん。「はい」と答える方を遮って専務の酒井さんが「いいんだよ、特別の場合は」と押し切り、灰皿を鈴木さんの前に置いてくださいました。酒井さんは、1年半前まで、日本テレビで氏家さんの秘書部長をやっていらした方です。鈴木さんが氏家さんのところに行ったときも、鈴木さんが吸ってはいけないところで煙草を吸うと、氏家さんが部屋に入るなり「誰だ、煙草を吸ったやつは!?」と怒っているという話をすると、酒井さんはニコニコされて、身を乗り出して鈴木さんのラジオの話をし始めました。
というのも、日本テレビが経営する麹町診療所所長の久保田有希子女医さんから、鈴木さんのラジオ「汗まみれ」に出演するというメールが来たそうで、ラジオを聞いた酒井さんの感想は久保田先生がとてもリラックスしていて、よかったそうです。
また、氏家さんの悪口とまでは言わないまでも、いろいろ際どい話をしていて大丈夫だったのか、と今度はソファーにもたれかかりながら笑って質問をされました。鈴木さんは、僕も正直大丈夫かどうか心配だったのだけれど、実はあの回を氏家さんが聞いていて、後日よかったと言ってくれた。「映像がないのに、まるでそこに自分がいるかのような気分にさせられた。あれは普段着で話しているからなのか、すごく良かった。ラジオは二次元だが、まるで三次元の世界だったよ」と。それを聞いて酒井さんは「氏家さんは鈴木さんのことが本当に好きだからな」とおっしゃっていました。
「高畑さんの禁煙レポートも最高だった」と酒井さんは話し、「氏家さんもあのレポートは高畑さんにしか書けない、傑作だ」と言っている、と鈴木さんも答えました。氏家さんは高畑さんが大好きで、「俺の死ぬ前に高畑さんの作品を1本見せろ」と本気で言っている。2年連続、氏家さんと高畑、宮崎、鈴木で海外旅行に行ったのだけれど、そのとき氏家さんがこう言っていた。「俺は高畑に惚れてる」と。なにしろ、一番大好きなジブリ作品は「となりの山田くん」と公言して憚らないんだそうです。福岡テレビの方々は一同に、ため息が漏れていました。また、その言葉に胸を射られたようでした。
「これから世の中、どうなりますか?」と氏家さんは高畑さんには真剣に質問する。すると高畑さんも答える。「地球は有限であることがわかった以上、名前は変わるかもしれないが共産主義をやるしかないですね」と。氏家さんは「俺も同感だ」と言う。それを我々が聞いているといった状況です、と鈴木さんが言うと、皆も感心していました。
最近「熱風」で氏家さんの回顧録の取材を1年がかりで、一ヶ月に一回の割合で始めている、それがそっくりそのまま昭和史になるのではないかと思っている、と鈴木さんが話すと、酒井さんがとても興味深い顔で、身を乗り出し「僕もキューバ、ハノイと氏家さんから断片的には話を聞いているが、そうやって点を線に繋げてくれるのは嬉しい」と話されました。
酒井さんの話によれば、野村證券に就職が決まっていた氏家さんは、讀賣新聞から声がかかり、ある人と賭けをする。それで負けたことによって讀賣に行くことになったんだそうです。これは「メディアと権力」という本の中に、讀賣新聞の渡辺恒雄社長と氏家さんについての箇所があって、そこにその経緯は書いてあったそうです。
氏家さんの回顧録というものはないから、ぜひ読んでみたい、と福岡テレビの方々も口々に顔を見合わせておっしゃっていました。「熱風」の編集長である田居さんも氏家さんの取材に立ち会っていてこう言ったそうです。氏家さんは“ 青年”である。決しておじいちゃんではない。“少年”であるのかもしれない、と。「あの年齢になって、いまだに消化しないものをかかえているからなのか」と酒井さんは言うと、続けて「奥田も『金ばっかり使いやがって』と怒られてばっかりだったなあ」と懐かしそうに話されていました。
氏家さんの話がひとしきり終わったところで、鈴木さんから仕事の話がやっと始まりました。「最後に少しだけ今度の映画の話をさせて頂くと」と切り出すと、「はい。最初から話の配分はこうなることがわかっていましたから、大丈夫です」と笑顔の酒井さん。仕事の話は下記のとおり。
この映画は庭がミソ。あの庭には小人が似合う。高畑さんは元気がいいといっても74歳、宮崎も69歳。今回は新人監督でいきます。とはいっても、お膳立ては宮崎がやっています。監督は宮崎のスタッフだった人間で、御大がいるからなかなか、新人が成長しづらいのが現状。今まで実は途中まで監督をやった人が数人いるけれど、2週間たたないうちに、みな、同じく十二指腸潰瘍になってしまった。今回の監督は、宮崎が何を言っても馬耳東風といった感じで、落ち着きがある監督。本人は監督になりたかったわけではなく、今でもアニメーターに戻りたいと思っている。でも実作業は今、ちゃんとやっている。絵はジブリの中で一番うまい。ポニョにおいても、ここがうまくいけば作品はうまくいくシーンを見事に描きあげた。
彼は人より多く仕事をして、やるしかない。宮崎が手を出す、それをどこまで言うことを聞くか、スタッフがみな見ている。困ったことに制作は今までで一番遅れているが、彼は「できるんだろうか」「やれることしかやれないんだし」と自分のペースを変えない。そして、女の子を描かせるとうまい。芝居をやらせたらうまい。次の監督がどういう人なのか取材がくるけれど、それには応じていない。作品ができる前に世間に出てきて、あれこれ話すべきではない。作品自体が、お蔵入りという可能性もあるわけで。
今回もNHKの密着取材が入っている。NHKとNTVの協力を得て、宣伝をしていきたい、と伝えると、福岡テレビの方が、「エコ関係も今NTVとNHKと2社でやっています。確か6月頃に…」と福岡放送の人が答えていました。
この映画の原作に宮崎はよく目をつけたと思う、と鈴木さん。小人と人間の恋。背丈が違う、ある種の緊張。それをやることで時代を考えている。美しいものが浮き彫りになる。どんな時代でも美しいものはあるし、生きるに値する。小人たちは体が小さい。自分たちが生きていくために必要なもの、それだけ借りて生活している。それで十分。飽食、既存のものばかり使っている時代へのアンチテーゼ。フランス人、歌、ケルティック・ハープで壊れそうな感じが小人の世界にあっている、等々と。
ついこの間までこれは絶対、大丈夫。ある程度はヒットするという映画がいっぱいあった。でも今は無くなった。そして絶対安心、というものが逆に怖い。鈴木さんの言葉に賛同して、奥田さんが「ウルルの森の物語」の前売券のデータはあてにならないと思ったと話した。なぜなら、前売券の販売率がよかったから、その計算でいくと公開したらもっと客足が伸びるはずだったけれど、そうならなかった、すいません、とおっしゃっていた。
プロが予想したものが当たらない世の中。お客さんの方が頭がよくなったと思う、と鈴木さん。メディアで取り上げられたものにだまされない、といった心境なのではないか。「アバター」も公開前は25億円の予想。それが蓋をあけてから40億。そして、80億になっていまは、150億とどんどん興行収入が上方修正されている。現在映画館では「アバター」だけが満員。観たくなくても見に行かなければならないような心理状態になっている。と、ひとしきり、話したあと、福岡放送を後にしました。
昼食は吉塚のうなぎ店に行きました。大きい窓から光が差し込んできて、清潔な部屋で、3対3で向き合って座る様子はまるでお見合いをしているよう、と奥田さんが嬉しそうでした。鈴木さんと東宝の新島さんがお父さん役で、奥田さんと美和子さんが当人同士。私が奥田さんの妹役で、東宝の杉井さんが美和子さんのお姉さん役という設定でした。
ともあれ、東京のうなぎとはひと味違う、うなぎの皮が香ばしくて美味しかったです。
「福岡キャラバン」
三回目のラインナップ発表会。会場は、ホテル"モントレ ラ・スール福岡"。会場の前には、灰皿があって、そこに所狭しと喫煙者が群がっていました。そこでちょっとしたエピソードがあったらしく、そこでの話が発表会でそのまま活かされることになります。
「さっき入り口で煙草を吸っていたのですが、煙が濛々としていて、まるでそこにいる人達は“ 滅びゆく種族”という感じだったんですね。僕は煙草を吸うけれど、煙が濛々としているところは嫌なんです。綺麗な空気の下で煙草を吸いたい。そうしたら、一緒に吸っていた人が扉を開けてくれたんです。そしたら濛々とした煙が外に吸い込まれていき、代わりに新鮮な空気がふわっと入ってきた。幸せでしたね。
“ 滅びゆく種族”、じつは、この言葉、映画の中で人間の男の子が小人の少女アリエッティに向かって言う台詞なんです。なんかその言葉を思い出しちゃって。映画の企画がどういうふうに決まるのか、その経緯をお話します。
最初、「ぼくとジョージ」という企画で進めていたのですが、ある日、宮さんが(宮崎駿)が突然、思い出したように「アリエッティをやろう」と言い出したんです。「いまは、小人の世界だと思う」。確かに読んでみるとその原作は面白かったんです。「借りて」「暮らす」ほんの少し人間の家から借りてくればいい。洋服も、ちょっとした布を借りてくれば、洋服が作れちゃう。今の時代にあっているかもしれないと思ったんです。もうひとつ、宮崎が言ったのが恋。病弱な人間の男の子が引っ越してきたときに、小人の少女アリエッティが見られてしまいます。
14歳の女の子と12歳の男の子の恋物語。つまり、禁断の恋です。原作では恋の話はありません。宮崎はいくら小人と人間であっても男女が出てくるのだから、恋を描くべきだろう、と。世界でありえないことが起きる。お客さんはありえないものが見たいはず。美しいものが見たいはず。先のことを考えて目の前のことをやろうとするとつまらなくなる。未来の図は描けない。目の前のことを頑張ってやっていくことで開ける未来があると思っている。どんな時代であれ、美しいものはある。そして生きていく意味がある。そういうものが通用すると思っている。
自分の作品ではシナリオを書かない宮崎が、今回はめずらしく脚本を書いた。それがストレートでとても面白いものになっている。また、設定も宮崎が描いた。荒れた庭、床下の家のデザイン。それは切手や植木鉢やデパートの包装紙で飾られた部屋。明るく楽しい部屋になっている。
最後に監督(麻呂)について。「ポニョ、来る」を描いたアニメーター。宮崎も絵コンテを描きながらどうやって描くのだろう、と思っていたものを見事に描ききった。麻呂が監督になるということは、自分と同じ同業者になってしまう、ということで、宮崎も麻呂を監督にするについては、実際には一瞬でしたが、かなり悩んだと思います。なにしろ、自分の次回作は、麻呂でやろうと決めていたはずなので。
ユナイテッドシネマの大谷さんが会場にいらしていて、鈴木さんの話を頷きながら聞いていらしたそうです。前からは皆の表情がよく見えるのだそう。福岡会場が一番反応がよかったそうです。
その後、奥田さん、上田美和子さんと話を引き継ぎ、発表会が終了となります。
「劇場見学」ユナイテッド・シネマ キャナルシティ
福岡県福岡市博多区住吉1-2
支配人:津和崎 亮さん(不在)
吉末みゆきさん/平井健史さん/坂本里華子さん
シネマコンプレックスというのは、元々、1985年にパラマウントとユニバーサルがイギリスに産み落とした映画館システムで、このキャナルシティも最初はAMCが経営していました。いまから14年前、1997年のことです。
その後、AMCが撤退し2007年住友商事の所有となり新たなスタートを切ったそうです。13スクリーン、2570席。スクリーン13は418席の大きさです。
かつて年間200万人動員したキャナルシティのこの映画館も現在では100万人と半分に減ってしまったそうです。博多駅にできるTジョイの影響も深刻そうです。
「劇場見学」ワーナー・マイカル・シネマズ福岡ルクル
福岡県糟屋郡粕屋町大字酒殿字老ノ木192-1-206
イオンモール福岡ルクル2F
支配人:吉田克己さん(不在)
黒崎梨衣子さん
9スクリーン、2043席。イオンモールの2階にあり、福岡空港の近くにある。駐車場は4500台完備。お客様の移動が車ということもあり、近くといっても距離的には離れているものの、ワーナーマイカルシネマズ筑紫野と、ワーナーマイカル大野城とこのルクルの3館でお客様を分けあっている状況らしい。
映画館に来る人を全体的に増やす努力をしなければ、既存の映画館はどこも大変な状況であるということが実際現場にいってみてわかりました。そして、横のバナーの張りどころは結構あるものだということもわかりました。
飲食を販売している方で、JFN「ジブリ汗まみれ」を聞いている女性がいらっしゃいました。20代の女性で、最近は聞けていないとか。鈴木さんから「ちゃんと毎週聞いてください」と言われ、大きく頷いていました。ラジオの全国ネットは宣伝効力が大きいとつくづく思いました。
以上でキャラバンと劇場視察は終了しました。車に戻ったとき、美和子さんから「お疲れ様でした」と"たけのこの里"が鈴木さんに渡されました。鈴木さんはこのキャラバン中、腹が減った、眠い、とずっと口にしていたので、なかなか甘い顔はできなかった美和子さんですが、仕事が終わってからご褒美としてお菓子を渡すところがすごいな、と思いました。
以上