「野中くん発 ジブリだより」2018年5月号
2018.05.10 4月5日(木)午前1時19分、高畑勲監督が亡くなりました。死因は肺がん。82歳でした。残念でなりません。言うまでもなく、高畑さんはジブリの主要メンバー3人の1人であり、ジブリで5本の長編映画を監督してきましたが、作品制作のみならず、節々でその知性と教養に裏打ちされた助言を頂戴することも多く、ジブリの精神的支柱とも言うべき存在でした。
これまた言うまでもないことですが、高畑さんはジブリが出来るはるか以前からアニメーションの制作に携わってきており、その歴史は60年近くに及びます。高畑さんがいなければ、日本の、いや世界のアニメーションは現在とは大きく異なっていたでしょう。「太陽の王子 ホルスの大冒険」は、真正面から現代的なテーマと心理描写に取り組み、アニメーションで深いドラマ性のある物語を描けることを証明しました。「アルプスの少女ハイジ」では日常の生活をアニメーションで描くことに挑戦し、1年間のシリーズを通して圧倒的な臨場感、存在感のある作品世界を構築してみせました。いずれも前例のない試みであり、その影響は計り知れません。「火垂るの墓」における徹底的なリアリズムの追求もまたしかり。さらに、レイアウトシステムの創出など、制作システムや技術面での創造も革新的でした。訃報が報じられたとき、日本だけでなく、世界中の主要なメディアがその業績を伝える詳しい記事を一斉に載せたのを見て、今さらながら高畑さんの為してきたことのすごさを感じました。
音楽、美術に造詣が深く、趣味の範囲をはるかに超えた知識を持ち、絵画については『一枚の絵から』等、本まで書いてしまうほどでしたが、好きなことはとことん楽しんで追求する〝エピキュリアン〞でもありました。一方、平和と民主主義を大切にし、「九条の会」の活動なども積極的に行っていました。最後の著作『君が戦争を欲しないならば』(岩波ブックレット)は、高畑さんのそうした面が良く分かる本です。
何でもとことん考え抜き、とことん調べる高畑さん。徹底的に論理の人だったけれど、同時にとんでもないエネルギーを持っていた人でもあり、しばしばそのエネルギーには圧倒されました。もっといろんなお話をお聞きしたかった。掛け替えのない人を喪ったという思いが日に日に増しています。
高畑さんとの「お別れの会」が、5月15日(火)、三鷹の森ジブリ美術館で行われます。