「野中くん発 ジブリだより」 9月号

 9月17日(土)、スタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」(監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット)がいよいよ公開されます。

 改めて書きますと、発端は今から10年前に、マイケル監督に対し鈴木敏夫プロデューサーが、長編映画を作ってみないかと提案したことでした。マイケル監督はオランダ出身のアニメーション作家で、元々アニメーターなので絵も大変うまい人。すでにその時点で短編の監督作「岸辺のふたり」が米アカデミー賞を受賞するなど、世界的に高く評価されていました。しかし長編映画の監督は経験したことがありませんでした。

 マイケル監督はこの提案に興味を示し、ジブリが製作することを前提に企画が動き始めました。そのときにマイケル監督が出したリクエストが、高畑勲監督にアドバイスをしてもらうことでした。初めての長編映画ということで、やはり短編とは異なる点が色々あります。それゆえの希望でしたが、「岸辺のふたり」を以前から絶賛していた高畑監督はこれを快諾。こうしてマイケル監督がシナリオ執筆に着手し、さらに絵コンテ、ライカリール(絵コンテを撮影し順番につないだ映像)の制作に進みますが、その間、日本側とは密にやり取りを重ねました。ライカリール制作の大詰めでは、来日してジブリの近くに借りた部屋で約1ヶ月滞在、高畑監督や鈴木プロデューサーと直接打ち合わせをしながら作業したこともありました。

 映画の形が見えて来たのと並行して、実際の制作現場はヨーロッパになりそうだということで、ジブリは海外配給の長年のパートナーであるフランスのワイルドバンチ社に本作の製作について相談。結果、両社の合作となり、その後本格的に映像制作がフランスで始まりました。その間もマイケル監督からは、音楽を含め様々な相談があり、ジブリは海の向こうのフランスとやりとりを続けました。こうした経緯により、高畑監督はアーティスティック・プロデューサーとしてクレジットされており、鈴木プロデューサーはもちろん本作でもプロデューサーを担当しています。

 2016年春、本作は遂に完成し、5月の第69回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門特別賞を受賞したことはこの欄でもお伝えした通りです。人と自然、そしていのち、生きること。マイケル監督にしか作れない素晴らしく美しい芸術作品であり、本作はやはりまぎれもなくジブリ作品の1本です。どうぞ宜しく。