「野中くん発 ジブリだより」 5月号

 三鷹の森ジブリ美術館では、5月30日(土)から新企画展示「幽霊塔へようこそ展│通俗文化の王道│」が始まります。企画・構成は宮崎駿監督。

 タイトルにある『幽霊塔』とは、江戸川乱歩の長編小説のこと。元々はイギリスの作家A・M・ウィリアムスンが1898年に発表した小説『灰色の女』を翌1899年に黒岩涙香が翻案し『幽霊塔』の名で発表、それを1937年に乱歩がさらに翻案して執筆したのが乱歩版『幽霊塔』です。宮崎監督は乱歩の『幽霊塔』を子供の頃に貸本屋で借りて読み、すっかり虜になりました。謎が謎を呼ぶストーリー、勇敢な青年と美しい女性との大ロマンス。中でも物語の舞台となる、幽霊塔と呼ばれる時計塔が大変気に入り憧れたそうで、深く記憶に残りました。その後、アニメーターとなってアニメーション制作に携わるようになり、1979年に「ルパン三世 カリオストロの城」で初めて劇場用長編アニメーション映画の監督を務めますが、宮崎監督は『幽霊塔』から受けとめた様々な要素を、自身の内で反芻し発展させこの映画に盛り込みました。今回の展示は宮崎監督のその思考プロセスを、エンターテインメント豊かに解き明かしていきます。

 宮崎監督は今回、乱歩の『幽霊塔』を約60年ぶりに読み返し、この小説は通俗文化の王道を行くものであると思い至ったそうです。通俗文化は人から人へ、バトンのように受け継がれていくものであると監督はよく言いますが、前述した『幽霊塔』という小説の成り立ちは、まさに通俗文化ならではと言えるでしょう。監督は今回も描き下ろしで10数枚のパネルを制作、漫画の形で『幽霊塔』と通俗文化、そして近代について語ります。これがまた大変濃密な絵で、もちろんとても面白い。これだけでも見る価値がありますが、それは今回の展示の一部にすぎません。この展示では、何と館内中央ホールに「時計塔」を実際に作ってしまいます。その中の螺旋階段を昇り展示室へ向かうと、そこには宝物が隠された地下迷宮を思わせる迷路が子供たちを待ち受けています。そして「ルパン三世 カリオストロの城」のジオラマが登場。映画の雰囲気を存分に楽しめると共に、舞台設定を紹介します。怪奇大ロマンの『幽霊塔』の世界をどうぞお楽しみ下さい。

 なお、ジブリ美術館は予約制ですが、初めての試みとして7、8月分のチケットの先行抽選販売を実施します。詳しくはホームページをご覧下さい。