「野中くん発 ジブリだより」 3月号

 現在、スタジオジブリはこの夏公開の米林宏昌監督作品「思い出のマーニー」をひたすら制作中ですが、宣伝が始まるまでにはまだ時間がありますから、この段階で皆さんにお伝え出来ることはまだあまりありません。ですが、ジョーン・G・ロビンソンの原作本上下2巻が岩波少年文庫から出ていますので、関心を持たれた方はまずはこちらをお読みになってはいかがでしょうか。基本的な内容はこの本を読めばよく分かりますし、映画化を別にしても、もともと優れた児童文学として大変面白い本です。岩波少年文庫といえば、米林くんの前作「借りぐらしのアリエッティ」の原作本『床下の小人たち』も、岩波少年文庫から出ています。「マーニー」と「アリエッティ」の原作は、どちらもイギリスの児童向けファンタジー文学で舞台もイギリスですが、ジブリによる映画化は2本とも日本に舞台を置き換えており、この点も2作品の大きな共通点です。「マーニー」の原作本について、宮崎駿監督は以前、次のように書いています。

「この本を読んだ人は、心の中にひとつの風景がのこされます。入江の湿地のかたわらに立つ一軒の家と、こちらをむいている窓。(中略)ずっと前に見たことがあるような気がして、なつかしいような、せつないような気持ちになって、とつぜんマーニーのことを思い出すのです。これはそういう本です。」(岩波新書『本へのとびら─岩波少年文庫を語る』より)

 確かにそうですね。この本を読むと、舞台となる屋敷のイメージが強く印象に残ります。宮崎駿監督も推薦するこの本、一度読んでみてはいかがでしょうか。

 さて、岩波少年文庫といえば、先日発表された宮崎吾朗監督の新作「山賊の娘ローニャ」の原作も、このシリーズに入っていますね。著者は『長くつ下のピッピ』等で有名なスウェーデンのアストリッド・リンドグレーン。今回、吾朗監督はジブリとは別の場所でこの作品制作に取り組んでいます。しかも映画ではなくテレビシリーズ。NHKのBSプレミアムでこの秋より放映開始予定で、制作・著作はNHKとドワンゴ、制作がNHKエンタープライズ、そしてアニメーション制作はポリゴン・ピクチュアズとまったく新しい枠組みです。ジブリは制作協力の立場。かつてジブリで監督デビューした若手2人が、同時期に、別々に西欧の児童文学を原作に映像化に取り組んでいるわけですが、どちらもぜひいい作品になって欲しいです。