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監督多忙につき、ただいま番外編!

2006年4月12日

第六十九回 吾朗監督、壁を叩く

夜の9時ごろ、おなかを空かせた私がお菓子を求めてスタジオを彷徨っていると、アビットという編集室から、「ドン、ドン」という音が聞こえてきます。いったい何事かとのぞいてみると、吾朗監督がモニターを一心不乱に見つめながら、拳で壁を、

「どん、どん、どん」
「とん、とん、とん、とん」
「ど、ど、ど、ど、どん」

すわ、監督ご乱心か!?
こんなことになるのなら、プリングルズを無断で食べたくらいで文句を言うのでなかった……

と思いきや、実際はカッティング(編集作業)に備えて、絵の動きと音のタイミングを計っていたのでした。そのとき取りかかっていたのは、夜戸を叩く音があり、それを聞いて中から開けるというシーン。

どのように戸を叩くのが、ストーリーのなかでしっくりくるのか。たとえば、力強く3回叩くのか、それとも軽く5回なのか。そして、それによって現在できている絵の長さを、半秒短くするのか、4分の1秒短くするのか、それともそのままにしておくのか。こういったことを、モニター上の絵を見ながら、実際に壁を叩いて実験していたというわけです。

監督の頼もしい姿に安心した私は、再び空腹感を思い出し、おあつらえ向きに置いてあったチョコレートを失敬して、部屋を後にしたのでした。