ページ内容
2006年4月20日
第七十五回 スタッフとのせめぎ合い
前回、前々回の続きです。
繰り返しになってしまいますが、
私が画面作りについて初めにイメージしたのは、
シンプルな力強さでした。
今の時代、世の中には情報が溢れ、
ありとあらゆるものが細密な方向に向かっています。
それは、映像も例外ではないと思います。
だからこそ、強いメッセージを伝えるためには、
逆に情報の少ない骨太なものであることが
絵にも音楽にも必要だと思ったのです。
ですから、キャラクターはなるべくシンプルな線にして、
アニメーション本来の魅力である動きそのものを重視したいとか、
背景は自然主義というより、シーンの状況や雰囲気を重視して、
大胆な色使いをしてみたらどうかという発想をしていました。
ところが、このことを言葉で伝えるのはとても難しく、
例えを挙げようとすると、どうしても抽象的に、
ナウシカの頃、もっと遡るとホルスの頃の感じ、
という言い方になってしまっていました。
こういう言い方は誤解を招くことも多く、
「単なる懐古趣味ではないのか?」
「今までスタジオが積み上げてきた歴史を否定するのか?」
「今のお客さんが満足してくれるのか?」
という疑問や批判を、スタッフからも
直接的、間接的に受けることになってしまいました。
私に経験や実績があったならば
説得力を持ったのかもしれませんが、
徒手空拳の状態で、こうした批判にさらされることは
なかなかしんどいことでした。
しかし、作画演出の山下さんや作画監督の稲村さん、
美術監督の武重さんが私の考えに賛同してくれたことで、
なんとか初めの一歩を踏み出すことができたのです。
もし、彼らが賛同してくれなければ、
今出来上がっているような絵作りは
およそ実現は不可能だったと思います。