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2006年2月23日
第四十回 母の反対
私は、ずっとアニメーションの世界に入ることを避けてきました。
この日誌の前口上で、
「(私が監督を務めることを)父は反対だった」
と書きましたが、それが理由ではありません。
私が避けてきた大きな理由のひとつは、
母が反対していたことです。
私は、子どものときから母に
「アニメーターなんて仕事には就くもんじゃない」
と言い聞かされてきました。
仕事に忙殺され、いっさい家庭を顧みることのない
自分の夫のような人生を送ってほしくない、
と考えていたのだと思います。
そして、否応なく仕事の結果が世間の目にさらされ、
評価を下され、常に父親と比較される、
そんな世界に入ってほしくなかったのでしょう。
そして母自身の思いとして、
夫が優れた作品をつくり評価される一方で、
自分は、ほとんどひとりで子育てをする状況に追い込まれ、
誇りとしていたアニメーターという仕事を
辞めなければならなかったことに対して、
内心、忸怩たるものがあったのかもしれません。
だから私は、自分の好きな仕事を
なげうってまで育ててくれた母の気持ちが
いちばん気がかりだったのです。
父も反対しましたが、
実は、母の反対のほうが、
よほど私には重かったのです。
そして母は、今でも、
私が監督という立場に立っていることに、
心から賛成しているわけではありません。