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特集コラム「ゲド戦記はこうして生まれる」
2006年6月 5日
(4) ─レイアウト(後編)─
前回「レイアウト(前編)」で、スタジオジブリ作品の、画面作りに対する考え方について書きました。
今回は、アニメーション制作現場における、具体的な「レイアウト」作業について、解説したいと思います。
次の、制作フローをご覧下さい。
『ゲド戦記・制作フロー(クリックすると拡大)』
赤く囲まれたところが、「レイアウト」作業です。
●レイアウトとは何か
何でもよろし。
好きな俳優の映っている映画の画面を、頭の中に思い浮かべて「一時停止」をしてみてください。
どんな画面でしょうか?
それは、海辺にうち捨てられたピアノを弾くヒロインの姿かもしれず、今まさに、銃弾の飛び交う港へと上陸せんとする兵士たちの後ろ姿かもしれず、マントを翻して摩天楼のてっぺんから飛び降りようとする、ヒーローの姿かもしれません。
映画における、ひと区切りひと区切りの映像を、「カット」と呼ぶ。本コラムの第2回で、映画を構成する最小単位について書きました。
皆さんが今思い浮かべた映像は、「一時停止」していますから「カット」という事になりますね。
カットの中には、風景があり、建物があり、人物がある。
これが、「レイアウト」です。
もう少し、詳しく解説しましょう。
当然の事ながら、実写映画は、実際にカメラを回して撮影をします。
監督とカメラマンは、カメラのファインダーをのぞき込みながら、風景や室内の、ドコを切り取りたいのか──役者をどのように配置し、どう演技させたいのかを決め込みます。
これを、現場では「構図」や「カメラアングル」を決める、と言ったりします。
アニメーションに置き換えてみましょう。
この間、何度も書いてきた通り、アニメーションは、画面を構成する情報全てを、人間の手によって描かなければなりません。実写映画で、監督とカメラマンが、画面の「構図」を決めるのと同じように、アニメーターが、画面の構図を紙に描き起こしたもの──それを「レイアウト」と言います。
●具体的なレイアウト作業
この間、制作日誌で何度か、「作画打ち合わせ(作打ち)」の様子をレポートしてきました。
監督は、原画アニメーターに、画面で何を表現したいのかを、1カット1カット、細かく指示してゆきます。
これが、実際の映画の完成画面。
この映像を目指して、スタッフは紙に絵を描き出してゆく訳です。
監督と作打ちをした原画アニメーターは、一番先に「レイアウト」を描きます。
『これがレイアウトです』
良く見てみましょう。
キャラクターがどのようなポーズでいるのか、その後ろにはどのような背景があるのかが、描きこまれていますね。
次に、原画アニメーターが描いたレイアウトを、監督と作画演出・作画監督がチェックします。(レイアウトチェック)
監督の意図通りに、キャラクターや背景が配置されているかどうか。細かい演技指示や、背景をどのように描いて欲しいか等を、更に具体的に指示してゆきます。
『少年の起きあがりの指示』
『少年が起きあがった後の指示』
監督と作画演出・作画監督のチェックを受けたレイアウトは、原画アニメーターの元に戻され、原画作業が開始されます。
いかがでしょう?
レイアウトが、1カット1カットの画面を形作る、最も基本的で重要な作業である事が、お解り頂けたのではないでしょうか。
●背景美術もレイアウトから始まる
もう一度、先ほどの「制作フロー」を見返してみてください。
赤く囲まれた「レイアウト」が、右にのび、「背景原図」となっています。
この背景原図とは、レイアウトのこと。
アニメーターが描いたレイアウトは、背景美術スタッフに渡され、「背景原図」と呼ばれるようになります。
アニメーターは、レイアウトのコピーを元に、次回で説明する、キャラクターの演技「原画」を描いてゆきます。
何故、アニメーターと背景美術スタッフが、同じ「レイアウト(背景原図)」を共有する必要があるのか?
本コラムの第2回「絵コンテ・キャラクター・美術ボード(後編)」で、アニメーションの画面は、キャラクターと背景の、大きくふたつに分けられる──という見方を紹介しました。
アニメーション制作は分業で行われますから、アニメーターがキャラクターを、背景美術スタッフが、背景を描きます。
でも、各々がまったく別なイメージや考え方で絵を描いてしまったら、最終的に両者が合成されたときに、てんでバラバラな絵になってしまいますよね。
そこで、画面を構成する情報の元となるのが、「レイアウト」なのです。
監督と作画演出・作画監督のチェックを経たレイアウトから、アニメーターが原画を描いてゆくのと同じように、背景美術スタッフもまた、レイアウトを元に、背景を描いてゆきます。
原画・背景の具体的な作業に関しては、また後日解説しますが、アニメーターと背景美術スタッフが別々に作業を進めていても、レイアウトが同じであれば、最終的に合成された画面で、キャラクターと背景にズレが生じないことが、お解り頂けるのではないか、と思います。
実は、もう少し厳密な取り決めや指示があるのですが……複雑になりますので、今回はこれくらいにしておきましょう。
次回は、キャラクターに、「動き」という命を吹き込む、原画アニメーターの仕事について、書いてみたいと思います。