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特集コラム「ゲド戦記はこうして生まれる」
2006年5月 8日
「ゲド戦記はこうして生まれる」(1) ─前口上─
●新連載スタート!
映画「ゲド戦記」の企画・準備段階のエピソードと、ジブリの映画作りに対する考え方について書いてきましたコラム「ゲド戦記の作り方」。
今回からは、特集「ゲド戦記はこうして生まれる」と題して、映画の完成日まで、具体的なアニメーションの制作工程を解説してゆきます。
引き続き、ご愛読の程を。
●映画制作3つのポイント
さて。
ジブリの映画の作り方をご紹介する前に、第1回は「前口上」として、映画制作の基本的な流れについて書いてみましょう。
アニメーション映画制作は、大きく3つの段階に分けられます。
■プリプロダクション
企画・脚本・絵コンテ・キャラクター・美術ボードを作る準備期間。
■プロダクション
作画が開始され、実際に映像が完成するまでの期間。
■ポストプロダクション
完成した映像を編集し、音楽・台詞・効果音をつけ、最終的にフィルムにプリントする迄の期間。
コラム「ゲド戦記の作り方」では、主にプリプロダクション段階について書いてきた訳ですね。
アニメーションの場合、プリプロダクションとプロダクションは、同じスタジオの中で行われ、プロダクションとポストプロダクションは、映像が出来上がった順から並行して行われます。
現在、映画「ゲド戦記」は、プロダクションが大詰めを迎え(完成映像が85%)、既に出来上がったところから順に、効果音・音楽・台詞(アフレコ)作業が行われています。
作業が並行して行われる性質上、アニメーションの場合、この3段階を明確にイメージするのは、ちょっと難いかもしれません。
解りやすいように、実写映画に置き換えてみましょう。
【実写映画の場合】
■プリプロダクション(準備期間)
企画・脚本・スタッフ編成・キャスティング・ロケ地やスタジオの選定などを行う準備期間。
■プロダクション(撮影期間)
ロケ地やスタジオで、実際に俳優が演技し、カメラを回して撮影する期間。
■ポストプロダクション(編集・音響・プリント期間)
撮影したフィルムを、物語に沿って編集し、音楽・効果音(台詞は現場で録音されている)をつけ、最終的にフィルムにプリントする期間。
アニメーションの場合は、殆どの作業がスタジオ内で行われますが、実写の場合は、準備期間・撮影期間・ポストプロダクション期間、各々で、関わるスタッフ(俳優含む)や、場所が大きく異なります。
明確に期間を区切らないと、非合理的で、制作費がかさんでしまう(スタッフの拘束時間=制作費)のです。
アニメーションにおいても同じ事。プリプロダクション段階で、作品のテーマから内容、キャラクターや設定に至るまでの準備がキッチリ出来ていないと、必ず後の作業を圧迫してしまうという事を、自戒も含めて記しておきたいと思います。
プリプロダクションでしっかり準備を行わないままプロダクションに入ってしまうと、最終的にポストプロダクションに大きな圧迫をかけてしまう。これは、スケジュール的にも、作品の内容的にも、好ましい結果を生みません。
ともあれ、映画制作は、大きく3つの段階に分けられる、という事を覚えておいて下さい。
●「ゲド戦記」制作フロー
僕らは映画を作る際に「制作フロー」というものを作ります。
アニメーションは、多くのスタッフが手分けをして作業を進める為、カット(映像を扱う1単位・次回で解説)が潤滑に流れ、監督以下、メインスタッフのチェックが、無駄無く行われなければなりません。「制作フロー」とは、スタッフが作業全体の流れを掴めるように、制作工程を図式化したものです。
加えて映画は、作品によって画面のスタイルからスタッフ編成など、様々な要因が変わってくるため、その作品に合った制作システムを確立しなければなりません。まさに映画は生きもの、なのです。
次の、「ゲド戦記」制作フローをご覧下さい。(クリックすると拡大)
『ゲド戦記・制作フロー(簡略版)』
実際に現場で使っているものは、この3倍くらい複雑なのですが(笑)、解りやすいように、簡略化してあります。
今回は、各行程の色にだけ、注目しておいてください。
上部の薄緑の部分が「プリプロダクション」
中部の緑色の部分が「プロダクション」
下部の濃緑の部分が「ポストプロダクション」
今後は、この図を元に、各行程の作業を解説してゆきたいと思います。