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「ゲド戦記」制作日誌
2006年3月10日
目をこらし、耳をすませば……
東京・東小金井は、朝から冷たい雨が、つぶやくように降っています。
今日は、16:00からラッシュ上映が行われます。
第1回目のカッティング(編集)を来週に控え、作画・美術・仕上・CG・撮影部が、バトンリレーの如く、怒濤のようにカットを流し、1カットでも多く完成映像を編集に回そうと、一丸となって頑張っています。
今日のラッシュの様子はまた、明日に。
さて。
今夜は、日本テレビ系列「金曜ロードショー」(21:00-23:19)で、「耳をすませば」が放映されます。
この「制作日誌」を読んでくださっている皆さんには、作品を楽しんで頂くことは勿論、ぜひ、この間ご紹介してきた、キャラクターの動きや色、背景美術にも、目をこらして頂きたいと思います。
とはいえ、せっかく映画を観るのに、そのひとつひとつに注目しろと言われても……ですよね。
そこでひとつ、「耳をすませば」の中で、アニメーションのダシがぎっしり詰まったシーンをご紹介します。
それは、「エンドクレジット」と言われる、物語が終わって、映画のボイスキャストや、制作者の名前がロールアップしてくるシーン。
「耳をすませば」のエンドクレジットでは、カメラがフィックス(カメラを固定すること)され、コンクリートの堤防の上を行き交う人々をバックに、エンドクレジットが流れます。
この、行き交う人々の「歩き」に注目してみてください。
女子高生……サラリーマン……OL……郵便配達員……買い物帰りの主婦……子供たち……。
同じ「歩き」なのに、その姿勢、足の運び方からスピードに至るまで、そのバリエーションの豊かさに驚かれると思います。
よく見ると、自動車のパース(遠近感)も、実際には見えない筈のところまで描かれていて、それが画面では、実に自然に見えるのです。
このシーンを担当したのは、「ゲド戦記」の原画でも素晴らしい演技を披露して下さっている某ベテランアニメーター。この方は、「耳をすませば」制作当時、毎日外に出て、行き交う人々の歩きを観察し、スタジオに戻っては机に向かっていたそうです。
アニメーターになる第一歩は、「歩き」をマスターすること。
「歩き」は、最も多く登場する動きのひとつですが、アクションシーンと違って、観ている人にそれを意識させず、キャラクターの特性を表現しなければならない、実に高度な表現なのです。
最高レベルの「歩き」を、これだけ長い時間、様々なバリエーションで観ることの出来るシーンを、僕は「耳をすませば」のエンドクレジットをおいて他に知りません。
僕は、ジブリに入って間もない頃、このシーンを何度も観て、「歩き」の奥の深さを知りました。
今夜、映画を楽しんで頂いた後は、ちょっと「アニ目」に切り替えて、アニメーションの「歩き」に、目をこらしてみて下さい。