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「ゲド戦記」制作日誌

2006年3月 4日

ポップコーン・スマイル

 
 突然ですが、僕は、東京・中央線の高円寺駅に住んでいます。

 一昨日の朝のこと。

 いつものように家を出て、電車に乗りました。
 ちょっと車内は混んでいましたが、空いている席があったので、座って新聞を広げます。

 十分後……車内アナウンスが流れました。


 「新宿~新宿~」


 !!!


 スタジオジブリがあるのは、高円寺から西へ二十五分の東小金井駅。新宿は、まったくの逆方向です。

 いつもと同じ足取りで電車に乗ったはずなのに、反対の電車に乗ってしまっていたのでした……。
 
 この行動の潜在的な意味を己に問うのは止めておくとして、この出来事を美術監督の武重さんに話すと、こんなエピソードを披露してくれました。


 三日前の夜、武重さん以下、美術スタッフと僕は、久しぶりに吉祥寺で、研修生として入った佐藤さんの歓迎会を催しました。

 休み返上で筆をふるい続ける背景美術スタッフ。
 久方ぶりの酒宴は、大いに盛り上がりましたが、皆疲れもたまっているという事で、いつもより早めに切り上げました。


 ──と、いつの間にか、武重さんの姿が消えていたのです。


 武重さん曰く、


 「あの後の記憶が、まったく無いんだよねェ……」


 気がつくと、自宅の布団で、朝を迎えていたのだとか。

 重い身体を引きずって布団から這い出すと、奥さんがこう言ったそうです。


 「あなた……昨日帰ってきてから、ニヤニヤ笑いながら、ずっとポップコーン食べてたわよ……」


 この半年間、年末年始も含めて、一日も休みもとっていない武重さん。働く男は、壊れッぷりも尋常ではありません。
 電車を反対に乗る、なんて、まだまだ序の口だナ、と頭を垂れたのでありました。