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「ゲド戦記」制作日誌

2006年2月16日

彼女は、トガッたアイツがお好き

 
 以前の日誌で、時の流れと共に、アナログ的な道具たちが失われつつある……という悲しい現実について書きました。


 否。


 道具たちだけではありません。

 時代によって男性観も様々ですが、今の時代、触れればケガする様な、トガッた男よりも、目も涼しげな、あま~いイケメンが、世の女性のお好みの様です。
 先のバレンタインデーで、涙を飲んだトンガリ硬派たちも、多かったのではないでしょうか。

 今宵は、そんな時代にあらがう、ひとりの男の物語……。


 
 今日、社内の女性スタッフが、僕のところへやってきました。
 
 
  某さん「もうダメ……終わりだわ!」

  僕「どうしたんですか?」

  某さん「あの人がもう、寿命なの……」

 
 すすり泣くその訴えを聞くと、某さんは長い間、キンキンに尖った硬派な彼と、ま~るく優しい彼と、双方合意の上で、良好なお付き合いをしていたのだそうです。
 ところが最近、硬派な彼が身体を壊し、某さんの見立てではもう、余命幾ばくも無い……と。
 
 彼は、こう言ったそうです。


 「俺はもう、充分君の為に尽くした。気にせずに、新しいトンガリ野郎を探してくれ……」


 でもこの時代、硬派なアイツに優るオトコが簡単に見つかる筈もなく……。


 すすり泣く某さん。


 また、ひとつの時代が終わったことを、僕は感じたのでした。
 
 
  
 な~んて。
 
 
 実はこれ、エンピツ削りのお話。
 
 アニメーターは、細く、繊細な線を描かなければならない為、先がギリギリまで尖ったエンピツを好みます。でも、最近のエンピツ削りは、「削り過ぎ防止ストッパー」なるモノがついているため、キンキンに尖る前に、エンピツ削りが止まってしまうのです。
 
 某さんは、改造してストッパーを外したエンピツ削りと、ストッパー付きのエンピツ削りを両方使っていたのですが、最近前者の調子が悪く、「どこかにストッパー無しのエンピツ削りが売ってないかしら」と、聞きにきたのでした。
 
 これは、アニメーション業界全体の大問題らしく、他のスタジオでも、「最近のエンピツ削りは先が尖らないので困る」という声が聞かれます。
 
 
 このブログをお読みになっている業界の方、もしくはエンピツ削りメーカーの方。もしまだ、ストッパーのついていないエンピツ削りが生産されていましたら、ご一報下さい。
 
 
20060216_kezuri.jpg
『某さんのエンピツ削り。左側が、余命幾ばくもない、愛しいアイツ……』
 
  

※この物語は、事実を元に創作されたフィクションです。