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「ゲド戦記」制作日誌
2006年2月 6日
聞きまつがいの夜
2月に入り、音響作業を見込んだスケジュールが固まりつつあります。
皆さん、劇場で映画を観ている時、画面の右上に一瞬チラッと見える、輪っかの様な印に気づいた事はありませんか?
これは、通称「煙草の焦げ跡」と言って、映画のフィルムをかけ替える合図なのです。
長編映画は大抵、90分以上の尺がありますが、フィルムの長さは、1本につき20分強という制限がある為、複数のフィルム(ロール)に分割する必要があります。120分の映画であれば、最低6本のロールに分けなければならない、というワケです。
最近の劇場では、1本に繋いでしまうところもありますが、皆さんが劇場で映画を観ている時には、映写室では2台の映写機が回っていて、1台目のロールが終わる瞬間に、2台目の映写機に切り替えているのです。
この、「ロール分け」は、スケジュールを預かる制作部にとって、最もリアルな〆切。映画の音響作業は、ロールごとに行うため、ひとつひとつのロールの尺(長さ)が決まっていないと、音響作業に入る事が出来ないのです。
『赤いケースがロール分けされたフィルム。金色の缶は、今月末に全国の劇場にお届けする「ゲド戦記」の予告編です!』
先週末、監督と音響スタッフの打ち合わせが行われ、現実的なロール分けが見えてきました。今後は、このロール分けを見込んで、細かなスケジュールを組み立ててゆきます。
ちょっと専門的な話になりましたので、ここでひとつ、小話を。
去る晩。
制作部で、ロール分けに関する打ち合わせをしていた時のこと。
厳しいスケジュールに、眉間にシワを寄せながら対策を練る制作陣。圧倒的な沈黙が、制作部を支配していました。
その、重い空気を解そうとしたのか、伊藤君が、新人・慎太郎に声をかけます。
伊藤「まったく、ロール分けは大変だ! なッ、慎太郎!」
パソコンに向かっていた慎太郎、何かを反芻するかの様に宙を見据えた後、こう言いました。
慎太郎「発泡スチロールですか?」
一同絶句。
やがて、引き潮が再び押し寄せるように、制作部は爆笑に包まれました。
その後、伊藤君の容赦ない突っ込みを食らっていた慎太郎。
しかし、これがもし、沈鬱な空気を和らげようという心遣いだったとしたら……なかなかニクイ計らいをしたものです。