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「ゲド戦記」制作日誌
2006年1月18日
「ゲド戦記」影と色との戦い
年明けから、監督日誌で「ゲド戦記」の具体的な内容や、画面に関する話題が多くなってきました。
せっかくですから、監督日誌の内容を、より深く理解して頂くために、制作日誌で、もうちょっと突っ込んだ解説をしてゆきたいと思います。
で、監督が、色彩設計の保田さんの指南を受けながら、仕上げ部の、色彩設計担当のスタッフと一緒に、キャラクターの色を決める作業の様子を、記していました。
今回は、「影」と「仕上げ」のお仕事について、書いてみたいと思います。
まずは、トップページの絵をご覧下さい。
主人公の少年が、竜に向かって大きく腕を広げています。ちょっと小さいですが、この少年の着ている「青い服」に、注目してみてください。
光があたっている右の部分は明るい青色、影になっている面積の大きなところは、暗い青色になっている事に、気づかれると思います。
暗い影の部分を「影色(かげいろ)」、明るい部分を「ノーマル」と呼びます。
大きく言うと、影には、ふたつの効果があります。
ひとつは、線で描かれた平面的な絵に、影を作ることで立体感を出せるということ。
ふたつ目は、影が入ることで絵の情報量が増し、画面がリッチに見える、ということ。
この影の量は、作品によって様々で、「影無し」という、まったく影が無いものから、「2段影」「3段影」と言って、ひとつの影部分に、いくつもの色分けをする複雑なものまであります。
この影は、まず、アニメーターが線画で描き分けます。
監督と作打ちをする際に、屋外だったら、太陽はどの位置にあるのか、室内であれば、光源(電灯やロウソクの火等)は何処にあるのかを確認し、キャラクターのどの部分が明るくて、どこが暗いのかを、鉛筆の線によって描き分けるのです。
「このシーンは、太陽が上から射しているので、鼻の下や、あごの下に、しっかり影を入れてください」
とか、
「このカットは夕方で西日が強く射しているので、西側のほっぺたは明るく、東側は影で落としてください」
という風に。
こうして、描き分けられた鉛筆の線画に、塗る色を指定するお仕事を「色彩設計」と言い、その指定に基づいて一枚一枚、色を塗ってゆくお仕事を「仕上げ」と言います。
監督日誌にもあるように、キャラクターの色を決めるときは、影による光のあたり具合にとどまらず、着ているものの材質や、そのキャラクターの人物像にまで、思いをめぐらさなければなりません。
例えば、少年と竜の向こうに見える夕陽が落ちたとき、少年の右側にある明るい部分の色は無くなり、服は、全体的に黒みを帯びた青になるハズです。
やがて中天に月が浮かび、服が照らされたとき、再び明るい部分は、月の白さを帯びた青になり、「影色」とのコントラスト(色の明るい部分と暗い部分の幅)は、もっとクッキリと、大きくなるでしょう。
同じ青色でも、そのシーンの場所や時間など、環境によってまったく違う青色が指定されているのです。
「色彩設計」と「仕上げ」は、限られた色を駆使して森羅万象を表現する、かくも高度で、難しいお仕事。
監督は今、色彩設計のスタッフと一緒に、その画面の状況や人物の服装、心情に至るまで議論を重ねながら、ひとつひとつの色を、決めている、という訳なのです。
「影色」や「色彩設計」「仕上げ」のお仕事については、実際に映画の画面をお見せできる時期になりましたら、「ゲド戦記の作り方」で、詳しく紹介したいと思います。