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「ゲド戦記」制作日誌

2006年1月 5日

カマジイによろしく

 
 今日は、スタジオ全体の仕事始め。

 鈴木プロデューサーが、

 今年も宜しくお願いしま~す!

 と、スタジオ中に声をかけ、パタパタパタパタ歩き回ります。
 勿論、その足は雪駄履き。


 いよいよ公開の年。
 制作スタッフは、日曜日以外の休日は全て出勤という臨戦態勢で、「ゲド戦記」の完成を目指します。


 今日は14:00より、監督、百瀬さん、美術監督の武重さん、撮影監督(映像演出)の奥井さんとで、冒頭シーンの撮影処理に関する打ち合わせが行われました。


 テーマは、海のシーン。
 監督が、雲と船と波とが流れる速さにどう差をつけ、雲間から射し込む光をどのように見せたいのかを、紙に描きだして提案します。それを、演出経験の深い百瀬さん、実際に雲や海面を描く武重さん、描かれた素材の動きとスピードをコントロールする奥井さんとが頭の中でシミュレーションし、議論を重ねながら実際の画面へとにじり寄ってゆくのです。
 
 20060105_Meeting.JPG
『身振り手振りを交え、白熱した打ち合わせでした』
 
  
 撮影監督の奥井さんは、完成した背景とキャラクターを合成し、最終的な画面作りを行う撮影部のチーフです。

 アニメーション制作がデジタル化した事によって、それまで、フィルムカメラを使ったアナログ上の処理しか出来なかったアニメーションの映像表現に、大きな広がりが生まれました。
 今やジブリの撮影部は、ひと口に「撮影」という言葉では言い表せない、広範囲な技術を駆使して、映画の画面を作り込んでいます。


 「撮影部の仕事は、最後に隠し味をいれる『味の素』だ」


 奥井さんは、宮崎駿監督にこう言われたそうです。


 鉛筆や筆だけで表現できない画面作りが必要になったとき、監督以下、メインスタッフは口を揃えてこう言います。


 奥井さん、よろしく!


 イヤな顔ひとつせず、高度な要求に次々と応える奥井さんと撮影部のスタッフたち。ジブリ作品の画面のクオリティをより高く押し上げる、縁の下の力持ちです。


 余談ですが、「千と千尋の神隠し」の「カマジイ」のモデルは、奥井さんなのだ、と宮崎駿監督が言っていた時期がありました。湯屋ならぬジブリの1階で、まるで何本もの手を使って仕事をしているかのようだからです。
 最終的には何故か、「湯バーバが鈴木さんで、カマジイは自分なんだ!」ということになっていましたが……。
 
 

 夕方から監督は、色彩設計の保田さんとキャラクターの色を指定する打ち合わせ。その後、作画監督の山下さんと、上がってきた原画の演技チェック。再び武重さんの所へ戻って、背景美術の霧の表現のチェックをし、今、ようやく自分の席に戻ってレイアウト作業に没頭しています。


 現場が動き始めてからの監督の大きな仕事は、膨大な数のチェック作業。映画がどういう方向に向かうべきか。最終的に決定するのが監督の仕事です。

 仮に、映画一本が1200カットと仮定して、1カットにつき10段階のチェックが必要になるとしましょう。
 チェック回数は、12000回。制作期間を10ヶ月=300日(土日含む)とすると、1日に、最低でも40回ものチェックが必要になる、という計算になります。


 監督って、大変ですね……。