ページ内容
「ゲド戦記」制作日誌
2005年12月22日
平らなオシリ
スタジオジブリの映画は、デジタル全盛の時代になっても、鉛筆と筆を使い、手作業で描かれています。
それでも、時代の波にあらがえず、アニメーションの現場から失われつつあるものは、少なくありません。長年スタッフが使い続けてきた道具が、ある日突然生産終了……という事が、近年とても多くなりました。
かつては一枚一枚、透明なセルロイドに、キャラクターの線を転写し、彩色していた「セル」。
アニメーター専用のアナログストップウォッチ(1秒24コマ刻みの6秒計)や、先を鋭く削ることの出来る鉛筆削り、等々。
空気が乾燥してくるこの季節は、加湿器が手放せませんが、水の粒子が細かく吹き出す最新の加湿器だと作画用紙がへたってしまう為、わざわざ古い加湿器を、中古で手に入れたりしているのです。
ジブリの背景美術では、日本画用の毛筆が使われていますが、ある時期からその品質が著しく悪くなり、今は、広島県熊野町の筆職人の方々に、特注して作ってもらっています。
それを知ったとある作画スタッフから、こんな注文がありました。
鉛筆のオシリを、平らにして貰いたいんだけど……。
鉛筆のオシリ……?
一日中、鉛筆を握り続けるアニメーターたち。
鉛筆は、あっという間にちびて短くなってしまいます。
もったいないので、ちびた鉛筆のオシリを、新しい鉛筆のオシリにセロテープでつないで使うのですが、最近の鉛筆はオシリが丸く山になっていて、ぴったりつなぐ事が出来ないのです。
『右が、オシリが平らな色鉛筆をつないだもの。左が、オシリが丸い最近の鉛筆』
早速メーカーに問い合わせ。
「鉛筆のオシリを、平らにして頂く事はできませんでしょうか……」
「オシリの丸みは鉛筆に高級感を出すためにつけているものなので、今のところ、平らな鉛筆を再発売する予定はありません」
エンピツよ、お前もか。
というわけでスタッフは、カッターで丸い山を削って、使っています。
『歴戦を戦いぬき、静かに眠る鉛筆たち』